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初めは当然うれしかった。誰もが入れるわけではない芸能の世界で活躍できる私を同級生は羨望の眼差しで見ていて、優越感もあった。そんな嬉々とした気分はすぐに消え失せた。仕事が忙しくなり、友達と放課後に遊ぶことも部活も諦めた。高校には通っていたが、体育祭も文化祭も一度も参加したことがない。学校には卒業するためだけに通っていたことで友人と呼べる人とのかかわりはほとんどなかった。
そして緊張しいの性格な私は仕事でよく叱られていた。演技で失敗すれば監督から、バラエティでうまく話せなければディレクターから、口では煽てながらもまだ大人になり切れていない私を周りの大人は冷たい目で見ていた。部活や学校でとは異なる大人からの叱咤は体力も精神もえぐられた。家で声も出ない涙を流したこともあるし、過呼吸で楽屋にうずくまることも多々あった。しかし、本番ではみんなの思う私でいなければいけない。私は二十数年間連れ添った自分の体と心に不快感すら覚えていた。
三年前の国際映画祭を皮切りに私はメディアから距離を置いた。競争の激しい世界で自ら背中を向ければ誰もが一瞬で記憶の中から消せるらしい。あれだけ熱狂的なファンも制作側や事務所の人間も途端に別の動きをして気づけば新人俳優が数々の舞台に立っていた。
今の私はこれまでの貯金を切り崩しながら生活をしている。きっと貯金は同世代と比べたら多少多いものの、一日何も用事がない日々は堕落していた。
憔悴していた時に一度実家へ帰ったが、私はすでにテレビの人になっていた。あそこはもう帰る場所ではないのだとその時悟った。
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