空に吠える

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 どこかで爆発音が轟く。しかし、私は振り向きもせず一心に走っている。人とも動物とも言えない悲鳴がねっとりと私の耳にへばりつくが、それを払って私は地下の隠れ穴へ滑り込んだ。地下は外と比べてひんやりとして静かだが、それでも地上から地響きが鳴り止まない。きっと今日も大勢の人間が死んでいる。  生まれた頃から紛争を繰り返す国に生まれた私は密かに暮らす鼠のように街中を這い回っていた。私も鼠と同様、敵は人間だ。  物心ついた頃にはすでに父がおらず、ほったて小屋に祖父母も含めた5人で暮らしていた。暮らしは当然苦しかったが、それでも私は家族と共に横になって眠りにつく夜が唯一心地よいひと時だった。  しかし、家族は私と異なる想いを抱いていた。夜中にトイレで目が覚め外てへ出ると祖父母と母が神妙な面持ちで話し合っていた。 「あの人はあの子をいくらで買ってくれると言っていたよ」 「たったそれだけ! それでも家族が一人減ってお金がもらえるなら一週間は暮らしていけるわ」 「もう少し時期を見たら値は上がらんだろうか」  大人たちは貧しい生活の中で一番育ち盛りな私を見ず知らずの男に売ろうと考えていたらしい。一週間飢えを凌ぎたいだけに私の一生を殺そうと考えている親たちに今まで抱いたことのない不愉快を感じた。一つ屋根で暮らして食事や寝顔など無防備な姿を見ては虎視眈々と売買の時期を考えていたと思うだけで吐き気がした。  私はトイレから家へ戻ることはせず、そのまま夜の下を駆けた。頭上に煌めく星たちが祖父が何度も話してくれた物語のように美しくて涙を流した。
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