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「私はいつも殿下にお手間をかけてばかりで」
「お前を見ていると、つい何でもしてやりたくなるんだ」
「小さいから、殿下とも不釣り合いで」
「可愛い」
殿下のブーツを見つめながら、矢継ぎ早にお尋ねしてしまいました。
要領の悪い私に怒っていたわけでも、見た目のアンバランスさを恥ずかしいと思われていたわけでもないのですね。
ラオニール様は、本当に私を愛してくださっているのでしょうか。
私は思いきって顔を上げ、もう一つだけ質問させて頂くことにいたしました。
「では、どうして私に触れられなかったのですか?」
「それは、か弱い人間のお前を壊してしまうのが怖くて……」
私は思わず目を瞬かせてしまいました。
だから、手を繋いだ時も、あんなにそっと触れてくださったのですね。
第六魔王子様で、何も怖いものなんてないような強面で、大柄なラオニール殿下。そんな彼が私を壊すのを恐れて触れられないほどに、私を好きでいてくださったなんて。
「人間は、そんなに弱くはないんですよ」
「そう、なのか?」
「はい」
驚いているのでしょうか。ラオニール様の翼がビクッとなりました。
なんだかラオニール様がお可愛らしく思えてきて、自然と頬が緩んでしまいます。
「ラオは、私をずっと愛してくれていたんですね」
口から言葉が溢れ出ました。
言葉にしてしまってから、失態に気づきます。
「あ……っ。申し訳ございません、ラオニール様」
私はあわてて言い直しました。
「ラオで良い」
「へ?」
「昔のように、ラオと呼んでほしい」
「ですが、そのようなことは……」
「頼む」
ラオニール様は、いつになく切実なお顔で懇願されました。ここまで言われてしまったら、そう呼ばないわけにはいきません。
「ラオ」
モジモジしながら、私は昔の愛称で彼を呼びました。
改まって呼ぶのも、気恥ずかしさがありますね。
「ユシェル」
ラオニール様――いえ、ラオは私の名前を呼び、私をそーっと抱き寄せました。ラオの腕に包まれ、小さな私は大きな彼にすっぽりと埋まってしまいます。
心臓が破裂しそうなのに、私はラオに抱きしめられて、なんだかホッとしました。
「愛してる」
ラオは私をいっそう強く抱きしめ、言いました。
「私も愛してます」
言葉にしてから、私ははっきりと自分の気持ちを自覚しました。
嫌われていると思っていたのに、ラオが私をずっと好きだったと聞いて、私はたしかに嬉しかったのです。
私はいつのまにか苦手なはずのラオを愛していたみたいです。
ラオが私から少し身を離し、ゆっくりと顔だけを近づけてきました。これは、もしかして、キス、でしょうか。なんとなく察した私は、ドキドキしながらも目を瞑ります。
私とラオの唇がそっと重なりました。
私とラオの初めてのキス。無骨なイメージとは違い、ラオのキスはとても優しいものでした。
胸がいっぱいになってしまい、私は背伸びをして、ラオの大きな身体にぎゅっと抱きつきました。
「私をラオの本当の妻にしてください」
この人の本当の妻となりたい。
自然とそう思い、気持ちが抑えきれなくなりました。
ラオが私の顔をじっと見つめました。私も下からラオを見つめ返します。
しばらくして、ためらいがちにラオが口を開きます。
「今夜は、ユシェルの部屋に行ってもいいか?」
そう言ったラオの翼は、嬉しそうにパタパタと動いていました。
この日の晩、私はついに身も心もラオの妻となったのです。
【おしまい】
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