5、愛のある結婚なのでしょうか

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「違います!」 「え?」 「魔王子様の妻として、ユ・シ・ェ・ル・様・が・お恥ずかしい思いをなさらないように、ドレスをご用意なさったのです」  エマは呆れたような視線を私に向けました。    えっと、それは、つまり?  イマイチ意味を理解しきれず、私は首を傾げます。 「ラオニール様は、第六魔王子としてお立場のあるお方。あの方自身は体面など気にされなくとも、周りはそうではありません」  幼い子に言い聞かせるようにして、エマは言いました。 「ユシェル様がお辛い思いをされないように、ラオニール様は数々のお心配りをなさっていたんです」 「私のために……?」  呟いて、私はティーカップを机の上のトレイに置きます。ほぼ同時に、エマが「そうです」と頷きました。 「私、ラオニール様がお生まれになる前から存じております。出過ぎた発言は控えておりましたが、もうじれったくて……」  う、生まれる前から? 同じ年頃かと思っていましたのに、エマは何歳なのでしょうか。  気になりましたが、とても聞ける雰囲気ではありません。エマはわなわなと手を震わせ、興奮している様子です。私はラオニール様だけでなく、エマまでも苛立たせてしまっていたのでしょうか。 「ラオニール様はユシェル様は溺愛なさっているのに、全くお気持ちが伝わっていません」 「まさか、あの方が私を溺愛だなんて……」  ラオニール様が私にお気遣いくださったのは確かですが、溺愛されているとはどうしても思えません。 「嘘だと思われるのなら、ラオニール殿下の翼を良くご覧になってください」 「翼を?」 「ユシェル様とお話しされている時のラオニール様の翼、よく動いていらっしゃいますから。魔王族の方たちの翼は、大切な方の前でしか動かないのですよ」  内緒話をするようにして、エマは言いました。  そういえば、ラオニール様の翼が動いていらっしゃるのは時々お見かけしました。まさか、大切な人の前でしか動かなかったなんて……。  お顔の怖さに気を取られて、私はラオニール様の他の部分まできちんと見ることができていませんでした。ラオニール様は、私のこともよく見てくださっていたというのに。  彼が私を愛してくださっているかは分かりませんが、あの方を理解しようとする努力が足りなかったのかもしれません。エマの話を伺って、そう思いました。 「ありがとうございます、エマ。ラオニール様と一度お話ししてみます」 「不躾ぶしつけな物言いをしてしまい、申し訳ございません」  エマは深々と頭を下げました。  とんでもないことでございます。私は、頭を上げるように彼女に伝えました。 「これからも今みたいに気さくにお話しして頂けたら嬉しいです。私、お友達があまりいないので」  にっこりと微笑み、私はお部屋を後にしました。
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