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その間、代わる代わる皆様が私の元へいらっしゃいました。
「初めてお目にかかります、奥方様」
「は、はいっ。ユシェルと申しますっ」
男爵家の生まれの私よりもずっと身分の高そうな方も、美しい方も、皆様が私の前にかしづかれました。
ああ、そんな、申し訳ない。
私はそのようなことをして頂くような者ではございませんのに。
ですが、第六魔王子の妻としては、もっと堂々と構えなければいけないのでしょうか。
第六魔王子の妻らしく振る舞おうと、拙いながらも皆様へご挨拶にまわりました。
とにかく殿下にお恥ずかしい思いをさせないようにしなければいけません。しかし、そう思えば思うほど焦りが募り、余計に空回りしている気がします。
そんな折、ようやく皆様の輪から抜け出された殿下が私の元にいらしてくださいました。
「ユシェル」
「は、はいっ。何でございましょう」
殿下のお顔がいつもよりさらに固い気がします。
お叱りを頂くのでしょうか。
「無理に会話しなくても、お前は私の横にいたら良い」
ラオニール様は厳しい表情のまま、そうおっしゃられました。ご挨拶もまともに出来ない私に呆れていらっしゃるのだと存じます。
ラオニール様の妻としてろくに会話も出来ず、私は何て役立たずなのでしょう。
愛がないとはいえ、ラオニール様は私の夫としてのお役目を十分過ぎるほど果たしてくださってしまいます。
それに対し、私は何も返せてはいません。
彼に恥をかかせないよう、第六魔王子の妻らしく立派に振る舞わなければいけないのに。
どれだけ着飾ったとしても、結局中身は気弱な男爵令嬢ユシェルのままなのです。
自分が本当にみじめで、情けないです。ラオニール様にも、皆様にも申し訳なく感じ、涙がこぼれました。
「ユシェル……」
ラオニール様が、長い腕を振り上げました。
殴、られる? 怖くなって、反射的に身体に力が入ってしまいます。
ゆっくりとこちらに伸びてきたラオニール様の腕は、ためらいがちに下ろされました。お背中についている翼も一緒に。
きっとはじめから暴力をふるわれるおつもりはなかったのでしょう。ラオニール様が私にそのようなことをされたことは一度もないというのに、私ったら……。
「申し訳ございません、少々気分が優れず……。失礼いたします」
いたたまれなくなり、私は背を向け、その場から走り去りました。
ラオニール様は一度だけ私を呼び止めましたが、追っては来られませんでした。
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