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彼らは超小型盗聴ロボットからの情報で、大統領たちが核兵器を隠し持っていること知り、慌てて彼らを地球から転送させたのだ。
今度の転送先は雪の惑星だ。
ここは宇宙人の指令室――彼らのリーダーは、大統領の思考をキャッチすると、「せっかく、放射線の脅威から救ってやったのに、まだ核に頼ろうとするなんて、なんて愚かなんだ。しかたない、核を廃棄しやすい、雪の惑星に送るんだ! 本部には試みは失敗だったと報告しておく」
その惑星に送られた人間がどうなるか、彼らはとっくに知っている。
核ミサイルが処理しやすいように極寒の大地に穴を掘らせて、核廃棄物を保管させておくのだ。
もちろん百万年は管理させねばならないが、その気が遠くなるような時間の間に、人間は進化してしまう。雪の惑星ではいくつも衛星が存在するので、複雑な潮の満ち引きが絶えず起きており、ほぼ厚さが二キロほどもある氷の下に南国の様に暖かい海があるのだ。
その熱気を温泉のように利用してビニールハウスで栽培すれば作物は育つから飢えることはないが、この過酷な環境にいつまで人類が辛抱できるかは未知数だった。
核処理のためにトンネルを掘っていた人間は、やがて海へ海へと暖さを求めはじめる……。
そして、最終的には宇宙船にいる彼らと同じセイウチに近い姿になってしまう。
つまり――時間さえ支配したセイウチ人の先祖こそが地球人なのだ。
しかし、セイウチ人にも泣き所がある。
水の中しか移動できないので、惑星探査にはロボットに頼らざるおえず、気圧の変化にも弱いので、宇宙船から一歩たりとも外へ出られない。
これでは宇宙開発がままならない。
なんせ、水がないと生きられないので、大気圏外に出発する宇宙船は動力装置が重量に堪えられるように、より巨大でなければならず、どうしても酸素だけで生きていける陸上生物に比べると効率が悪い。
そこで彼らは、自分たちの先祖が陸上生物で、どの環境にも順応しやすい特徴があることを知り、この種をわずかでも遺せないものかと考えたのだ。
《危険な宇宙開発は、そいつらを使えばいいんだ!》
リーダーは不愉快そうに鰓を鳴らした。
「そんな素敵な計画だったのに……。核兵器を隠し持っていたために、結局は此処に来てしまうとは、バカバカしくて話にならん!」
そんな彼に、部下の一人がこう聞いてきた。
「なら、我々の時代に連れて行けばいいんじゃないでしょうか?」
するとリーダーは首を横に振った。
「先祖をか? 連中は我々を子孫と知らずに憎みきっているんだぞ。そんな危ない真似ができるか! また核兵器を隠し持ってるかもしれんのだ……。そうなればどうなる? 我々の時代の故郷が核で汚染されてしまうじゃないか。冗談じゃない! あんな野蛮人を連れて行けるか!」
「はあ」部下は右ヒレで頭を掻いた。
そして、こう思った。
(そんなに信用できないのなら、はじめから手を出さなきゃいいじゃないか! これじゃ本末転倒だよ?)
本当なら、この惑星に人類が自力で到達するには、もっと過酷な紆余曲折が必要だったのだ。
そんな彼にリーダーは命令を出した。
「さて時間転送装置を作動して、元の時代に戻るぞ! みんな、御苦労だった! 久々に楽しい我が家だ!」
自分の祖先を氷の惑星に送った彼らのリーダーは、人間がいなくなり、大喜びしているタコ原人や半魚人をモニターで眺めながら、舌打ちをした。
「結局、地球はあいつらのモノか……」
実は彼らの時代では、タコ原人や半魚人は惑星連合の中心メンバーなのだ。また、人類がジャングルの惑星で十年間、戦った翼竜人は、さらなる知的生命体に進化して惑星連合の指導的な立場にいた。
先ほど、時間転送装置を作動させた部下は、計画の失敗して、仏頂面のリーダーを眺めながら、(さて、どっちが野蛮なんだろうか?)と、内心、首を傾げていた。
了
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