選ばれた人たち

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 その宇宙人は、突然数十キロもの規模がある巨大な円盤で訪れ、人類にこのようなメッセージを送った。  電波など使わない。  彼らは全人類の脳に、直接、語りかけてきたのだ。  《君たちは、そのレベルの文明を築いてさえ、まだお互いを殺し合う、戦争なる命と物資の無駄遣いをしているのか、それはとても愚かなことだ。止めなさい》  だが戦争を続ける民族はやめなかった。政府というものは融通がきかないもので、なかなか方針を転換するわけにはいかない。  《言い分は聞こう、それぞれ、心の中で呟いてごらん。思考を読み取るから》  と、宇宙人の声が全人類の脳髄で木霊した。  そこで、その国の人々は、「余計なお世話!」、「連中に息子や孫を殺された!」、「あいつらは悪魔だ!」と、心の中で叫び、最後に、その国の大統領が心のうちで、このようなメッセージを送った。  『内政干渉だ! 異生物は黙って観察すれば……』 メッセージは最後まで届かなかった。  なぜなら、その瞬間、老若男女、その民族は自分たちの家、街、畑、水力、風力発電所、工場、軍事施設などと共に十万光年先の惑星に送られたからだ。送られた惑星は海もあり、川もあり、巨大な湖もあるが地表のほぼ七十パーセントがジャングルで、あとは山脈、どのような生物が潜んでいるのか、まるで見当もつかない。  大統領は、(なぜ科学がはるかに進んだ異生物を怒らせた? 黙って従がえばよかった!)と、後悔したが後の祭りだ。どんなに詫びを入れても宇宙人は何も反応しなかった。  絶望する彼らに、宇宙人は皮肉たっぷりに、こう告げた。  《そんなに領土が欲しければ、この惑星を丸ごとあげよう、不屈の魂を開拓にかたむけなさい》  彼らは塗炭の苦しみを味わい、多数の犠牲を出したものの、なんとか生き残り、文明こそ原始的だが国を維持することが出来た。  それから十年後、いきなり予告なしで、今度は草一本も生えていない惑星に送られた。  彼らの大統領は宇宙人に抗議した。  『なんて事を! これではあんまりじゃないか! こんな荒れ野でどう生きろって言うんだ!』  すると宇宙人は、このようなメッセージを送ってきた。  《なにを言ってるんだ、君らの故郷の地球だよ、もっとも他の民族は滅びてしまったがね……》  『なんだって! 月が二つもあるじゃないか! そんなのウソだ!』  《ははははは! よく眺めたまえ、あれはオリオン座のベテルギウスだよ、寿命で超新星爆発を起こしたから、あんなふうに見えるのさ、春になれば、月が一つに見えるさ」  『じゃあ、本当に人類は滅んだのかっ!』  その質問に宇宙人は冷淡だった。  《あれだけ原発や核兵器で核廃棄物を出したら生きていけるわけがない。そこで我々は核廃棄物が無害になる頃合いを考えて、血気盛んな君らを十万光年先の惑星に送って開拓の技術を発展させたのさ》  『そ、そんな! そんな!』  あまりのことに、大統領は口をあんぐり開けるしかない。あの巨大なワニのような肉食獣が群なすジャングルの戦いにそんな意味があったとは?  『あいつら……翼があって、まるで恐竜だ! おまけにカメレオンの様に保護色で隠れてしまうんだ、文明も進んでいて、二十世紀初頭くらいの銃まで使いやがって……。あのバケモンとの死闘が地球再生のための予行練習だって?』  《そうだ、まずこちらの話を聞きなさい》   大統領は他の大臣と顔を見合わせた、感情的になったからといって状況が改善するわけではなく、相手を怒らせれば、もっと悪化する可能性もある。大臣たちは口々に短気な大統領をいさめた。  「大統領、冷静に! ここはあいつの話を聞きましょう!」  「宇宙人とは同じ立場ではないんです。逆らえば、今度はどんなことになるか!」  大統領は大きく溜息をついた。  「くそお! 無力というのがここまで悲しいとは!」  彼は悔し涙を流しながらも、なんとか『話を伺おう』と、冷静なメッセージを宇宙人に出すと、  すぐに宇宙人の氷の様な声が脳髄に響いた。  『ねらいどおり百万年の時間を得て、放射性物質などがすべて無害になった。だがそれでも、生き残った生物、植物は存在する――君たちは今までの経験を生かして、地球の再生に汗をかきたまえ、もう、他に邪魔な民族はいない。願った通りじゃないか!』  「この糞野郎!」と、思考するのを、すんでのことで大統領は思い止まった。  「相手は人間の常識なんか通用しないんだ。彼らは百万年をほんの数か月程度しか認識していない」  大統領は、もう宇宙人を批判しなかった。  (今に見ろ! 俺たちは核兵器を隠し持っているんだ。 見た目には電柱やパイプにしか見えないが、組み立てたら大気圏外も狙えるミサイルさ、油断して近づいたら復讐してやるからな)  彼らは面従腹背で、よく我慢した。  ただ黙って、ひび割れた地面を耕し、見たこともない生物を狩り、種を植え、田畑を耕した。  そのうち、恐ろしいことに大統領は気がつく。  たしかに人間は彼らだけしかいなかったが、深海魚やタコが進化した生物が知的生命体として地球を支配しており、彼らは戦い続けるしかなかった。  「畜生! 殺さないと殺されてしまう! どうしろって言うんだよ!」  と、大統領は迷ったが、とりあえず防衛だけにとどめて、深追いはせずに、彼らのテリトリーの海には手を出そうとしなかった。  また余力がそれだけしかないという事情もある。  深海魚の半魚人やタコ原人は弓矢や斧、刀などの中世期の武器しかもっていなかったが、人類側も翼竜人との戦いで、銃弾薬を十年で使い果たして、近代兵器をほとんど使えなかった。  「残っているのは核だが、虎の子を連中に使ったら身も蓋もない」  と、大統領は、それだけは控えていた。  「使えば糞野郎が許さないに決まってる! あいつは俺たちを試してやがるんだ! それにな……お楽しみがなくなっちまう! これは絶対に神様気取りの糞野郎にお見舞いしてやるんだ!」  大統領の読み通り、宇宙人は罰しようとはしなかった。ただ大気圏外で傍観するだけだ。  「くそお! 油断しやがらねえ! ペテン師の糞野郎め!」と、民族の誰もが宇宙人を憎んだが、タコ原人や半漁人とは共存共栄するしかないと、平和協定を結ぶに至った。そうでもしないと物量不足で、先が見えていたからだ。  「こっちの数が少ないとわかれば、あいつらは攻めて来る!」  と、大統領は薄氷を踏む思いだったが、そうはならなかった。  彼らは、恐ろしい姿をしていたが、さほど好戦的な種族ではなかったのだ。  こうして、彼らの戦いの歴史は終止符を打ったが……。  防衛大臣が、「どうします? 核兵器を手放しますか?」  そう訊くと、大統領は首を横に振った。  「嫌だ糞野郎に使うんだ! 強力なカードは持っておかないと……この先、なにがあるか……」  大統領は急に寒気を覚えて、身体を震わせた。  「なんだ? 急に寒くなって来たな? 収穫は終わっているか?」  「ええ、もう少しで冷害で作物がダメになるところでした」  そう言いながら大臣が、窓のカーテンを開いた途端、彼らは悲鳴をあげた、せっかく耕した新しい田園がなく、一面の雪景色があるばかりだ。                              
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