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199X年
上手くいけば四〜五年後、寒くて痛い中で、お百度参りをする必要もなくなる。
兄の同級生が進学や就職で立派に地元を発つ中、兄だけ心が中学生のまま身体と態度だけ大きくなり、自室に鎮座していたのだ。
おかげで友達も家に呼べやしない。
兄には死んで欲しかった。
だから危険性を知りながら、私は兄に呪いをかけた。
だが叶わなかったのだ、所詮は迷信ということ。
私にも兄にも何も起こらなくて、ただ憎しみ合いながら生きた。
兄が学校を欠席するようになったのは、単に校風と合わなかったからだ。
受験を経て第三志望の私立中学校に鬱々と登校していた兄が、級友たちから苛められるまでに時間はかからない。
長い夏休みが終わると、二学期以降一日も通学せず卒業した。
苛めを認めなかった学校なので、黙ってさえいれば進級・卒業させてくれたらしい。
エスカレーター先の高校には進学させてもらえなかったが、父はそんな兄を恥と考え文句も言わず、苛めの証拠集めもしなければ、兄の話しも聞かず目を逸らし仕事に没頭した。
私は出産後、孫の顔を見せるため極稀に実家の敷居を跨いだが、兄の姿はあえて見ない。私からも聞かないし、父は独り暮らしと思い込んだ。
未来を知っているとは良いことだ、備えることができるから。
この時期ならまだ間に合う。兄に勉強を頑張ってもらうか、もしくは地元公立中学に進んでもらおうではないか。
子供の私の言うことなんて、間に受けてくれる大人はいない。
それでもせめて家族のために、ゆくゆくは自分のために。
四十代半ばで兄が孤独死しないために、とは恩着せがましいだろうか。
六時間授業の兄も帰宅して、今は塾の準備をしている。
早速近寄り話しかけた。
「ちゃんと勉強しなよ」
兄は不思議そうな顔で私を見詰める。
「しているよ」
「足りないから言っているんだよ」深夜ラジオを聴きながら勉強……せず葉書き職人になり、新しい参考書を買ってもらい……白紙のまま、図書館で勉強する……と出掛けるも読書だけ。
漫画やゲームをしなくても、兄は勉強もしていない。
ここの私は知らなくても、中の私は知っている。
「お兄ちゃん世の中舐め過ぎだから」
だから自殺したのでしょう?
父が過労死して、湯水の如く貰えたお小遣いが底をついたから。
遺産は家以外私が貰ったわ、子供部屋おじさんが相続なんて許さない。
「言い過ぎよ咲依、お兄ちゃんだって頑張っているわ」
母のいる感覚は変だ。
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