202X年

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 パッと見いつもの小学校なのだが、廊下や教室の位置が何故か逆になっている。  右側通行になっていて、階段を上り廊下を進み、教室に入る流れも場所も同じなのに。  左にあったはずの階段が右にあり、廊下の左にあったはずの教室は右にある。在学中、百周年を祝った歴史ある小学校だ。  その古惚けた校舎が、昨日・今日で左右入れ替わるはずがない。  更に言うなら古さは同じなのだから、益々意味が分からない。  担任は一緒、友達も相変わらずで。物の配置だけ逆さまだ、変な夢。  下校時に通る道沿いのマンションや建物も、また自室も同様に逆さまだ。 「ただいま」  記憶通りなら今日はプールも公文もない日。  一度帰宅しランドセルを置いて、友達と校庭に集合する約束をしていた。  去年までは学童に入っていたのだけど、今年から鍵っ子のようだ。 「あら、おかえり。宿題は」  私はランドセルを肩から下ろす途中のまま固まる、誰だこいつ。  知らない年配女がベタに、料理を作りながら立っている。 「音読と計算と、あとドリル」 「そんなにあるなら先に終わらせちゃいなさい」  と言ってもドリル以外は大して時間がかからない。てか誰で、どちらさま。  私はマジマジと年配女を凝視する。 「妃富ちゃんたちと学校で遊ぶから」  宿題はその後でやる。  覚えている通り連絡帳は、食卓の台上に開いて置いた。  記憶では帰宅した父が、目を通し捺印してくれる。  ところが年配女が目の前で判子をつく。  どうして我が家の印鑑置き場を、記憶にない女が知っているのか。 「音読と計算だけでも先にやっちゃいなさい、そしたら遊びに行っていいから」渋々計算カードを取り出し、誰、と教科書で顔を隠しながら聞いた。 「何言ってんの、あんたのお母さんでしょう。あんたを産んだのはこの私」 「もしかして、延江(のぶえ)さん」  記憶には存在しない母。何故なら母は、私を産んだ日に死んでいる。  だが母の顔は兄にとてもよく似ていて、とても他人に思えない。  やはり夢だ、しかし頬を抓ると痛かった。  既に西暦は二千年が過ぎ、私もアラフォーだったのに。  テーブルの隅に畳んで置かれた新聞には九十年代の印字、卓上カレンダーも同様だ。  これはこれで私の生年月日と、今々の年齢とも説明がつく。  つまりタイムリープした?  それも母のいる世界線に。  となれば話しは早い!  三つ離れた兄は翌年登校拒否に陥るから、それを食い止めるのだ。  我が家が崩壊し、私の青春も失われた理由。  それこそ兄の引きこもりだ。
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