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202X年
事情聴取にはひとりできた。
可愛い子供と無難な夫に恵まれたアラフォーの私だけど、仕方ない。
自死したのは私の兄で、身寄りは私だけだから。
「最後に会われたのはいつで、やり取りは残っていますか」
「連絡は、どれほどの頻度で取られていましたか」
「生命保険の契約はありますか」
幸い犯罪性はないと判断してもらえたが、遺体は私の元にきた、だけじゃない。それだけでも迷惑な話しなのに、搬送料や検死費用まで私に請求される。
お荷物だった兄のこんな費用、きっと夫は支払わない。
それどころか自殺した兄がいるなんて、私はどう思われてしまうのか。
私は兄が大嫌いだった、タダ飯食いの暴力男。
だから私は早く地元を捨てたのに、こんな形で舞い戻るとは。
警察署から駅へ、街並みの変わった地元道を歩く。
行きは雨降りだったこともあり、余り周囲を見ていなかった。
今は止んだので歩き易い。
子供の頃よく遊んだ公園には、雨が降ると大きな水溜まりができたことを思い出す。行ってみる、真っ直ぐ帰宅したところで憂鬱なだけだから。
長靴を履き傘をさして、カッパを着た小さな私はよく、その水溜まりで遊び泥濘に足を取られ、尻餅をついては服を汚し父に怒られた。
ブランコ、鉄棒、雲梯と滑り台の複合遊具、砂場、そしてボール遊び禁止の広場。
まだ小さかった当時の私は、その水溜まりに映った自分を見るのが好きだった。現在も同じ場所に水溜まりがあり、あの頃より浅くみえる。
水溜まりの中の私はポカンと呆けた顔。
どちらも同じ私なのに、左右逆さまのせいか違って見える。
なんて考えていたら突然……そう、とても急に。
水色のインコが中から飛び出し、私の顔目掛け羽搏く。
驚いた私は避けようとしたが、上手く躱わせず倒れてしまう。
私は目を硬く瞑って、地面に打つかる衝撃を待ちながら、しかしない。
寧ろ両足は地にしっかりと着いているし、直立している感覚まである。
「咲依ちゃん、どうして目を瞑っているの」
幼き日の妃富ちゃんの声が聞こえ目を開けると、私は周囲を見渡した。
まず自分、カッパを着ておらず体操服。
ゼッケンにはクラスと名前が書いてあり、三年三組。
足元には乾いた砂がバラつき、雨の跡もない。
前方に四階建ての校舎、後方に鉄棒、肋木、登り棒。
いつの間に登校した、雨が止んだ。
状況を飲み込めないまま、休み時間の終了を告げる鐘が鳴ったので、急ぎ私も教室に戻った。最大の違和感はここからだ。
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