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「おお、真矢、親御殿の墓参りか」
真矢は渡辺家の菩提寺であり、真矢の両親の亡骸を無縁仏として葬ってくれた寺でもある大臨寺に出向いていた。
無縁仏の搭に手を合わせ、境内を歩いていると、寺の縁側から住職の声がした。
「準備はできている。今日渡すで、茶の相手でもせよ」
住職はそう言うと、真矢を招いた。
縁側に腰を下ろし真矢が待っていると、住職が細長い風呂敷包みを持ってきた。中身は刀剣と思われた。
「頼まれたとおり、退魔の祈祷をしておいた。先代の住職がさる幕臣より預かったままになっていた刀だ。お前に譲ろう」
「かたじけのうございます。では、遠慮なく」
真矢は恭しく包みを頂くと、住職に「いよいよかと存じます」と告げた。
「そうか。おぬしの勘は当たる。おぬしが言うのならそうなのだろう」
小坊主が茶菓を運んできたので、話が一旦途切れる。二人で何事もなかったかのように、手入れされた庭を見ていた。
「で、勝てるのか?」
小坊主が下がったところで、住職が口を開いた。
「わかりませぬ。ただ勝つための努力はしてまいりました」
「不憫よのう」
住職がぼそっと告げる。
「不憫?」
「ああ。おぬし達が持って生まれた宿命が、だ」
真矢は協力を仰ぐため、和尚にはすべて話してあった。
「自ら望んだことですので、悔やんではおりません」
「達観しておるのう。その異教の神とやらに会ってみたいものじゃ」
「会ってどうなされます?」
「そうだな。酔狂にもほどがあるとでも、言ってやろうか」
二人は穏やかに笑った。
「またここで、おぬしと茶が飲みたい」
「はい。必ず」
真矢はそう答えると深く一礼して、刀剣の包みを持ち寺を辞した。
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