2.剣士

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「おお、真矢、親御殿の墓参りか」  真矢は渡辺家の菩提寺であり、真矢の両親の亡骸を無縁仏として葬ってくれた寺でもある大臨寺(だいりんじ)に出向いていた。  無縁仏の搭に手を合わせ、境内を歩いていると、寺の縁側から住職の声がした。 「準備はできている。今日渡すで、茶の相手でもせよ」  住職はそう言うと、真矢を招いた。  縁側に腰を下ろし真矢が待っていると、住職が細長い風呂敷包みを持ってきた。中身は刀剣と思われた。 「頼まれたとおり、退魔の祈祷をしておいた。先代の住職がさる幕臣より預かったままになっていた刀だ。お前に譲ろう」 「かたじけのうございます。では、遠慮なく」  真矢は(うやうや)しく包みを頂くと、住職に「いよいよかと存じます」と告げた。 「そうか。おぬしの勘は当たる。おぬしが言うのならそうなのだろう」  小坊主が茶菓を運んできたので、話が一旦途切れる。二人で何事もなかったかのように、手入れされた庭を見ていた。 「で、勝てるのか?」  小坊主が下がったところで、住職が口を開いた。 「わかりませぬ。ただ勝つための努力はしてまいりました」 「不憫よのう」  住職がぼそっと告げる。 「不憫?」 「ああ。おぬし達が持って生まれた宿命が、だ」  真矢は協力を仰ぐため、和尚にはすべて話してあった。 「自ら望んだことですので、悔やんではおりません」 「達観しておるのう。その異教の神とやらに会ってみたいものじゃ」 「会ってどうなされます?」 「そうだな。酔狂にもほどがあるとでも、言ってやろうか」  二人は穏やかに笑った。 「またここで、おぬしと茶が飲みたい」 「はい。必ず」  真矢はそう答えると深く一礼して、刀剣の包みを持ち寺を辞した。
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