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6.異教の神
私のせいであなたを死なせてしまった。
その後悔と共に、私は腐り朽ちていくあなたの亡骸の傍らに寄り添い続けました。
どのくらいの時間が経ったでしょう。
ある夜、空に星が流れ、熱風が吹き、私に声をかける者がありました。
見上げると、絹の布を腰と頭に巻いただけの、褐色の肌の男が空中から私を見下ろしていました。
「殊勝な猫だな。死してなお、飼い主に寄り添っているのか」
「お前は誰だ」
不思議なことに、あなたとも言葉を交わせなかった私が、この不思議な恰好の男とは言葉を交わせるのです。
「私か。私はこの国よりはるか南の国に住む神だ。物見遊山していたところで、お前達を見つけた」
「この方は飼い主ではない! 私の恩人だ!」
私は反論しました。
するとその異教の神は、残酷にもこう言いました。
「もうその男は生き返らぬ。気付いていないだろうが、お前だってもう命は尽きている。この世のものではないのだぞ」
私は自分も死んでいるとは思わず、その言葉に驚きました。
「どうだ、一緒に私の国へ来ないか。私の国はお前のような猫を守り神にしているから、大切にされるぞ」
異教の神はそう言って誘います。
「いやだ。私はこのお方のそばを離れない」
「そうか。残念だが仕方ない。では、お前にいいことを教えてやろう」
私の答えを予測していたかのように、異教の神はあっさりと引き下がりました。
「この男はもうすぐ生まれ変わる。この国には輪廻転生の教えがあるからな。しかし術が不完全に終わったために、四つに切り分けたあやかしの身体のうち、残された下肢、胴体、上肢がそれぞれ妖魔となってあとを追い、三度この男の命を狙うだろう」
「それは困る。なんとかしたい」
私は途方に暮れました。
私のせいで、この方は転生しても命を狙われるというのです。
「ここで出会えたのも何かの縁だ。私の力でお前を三回生まれ変わらせてやる。生まれ変わって、この者を助けて恩を返せばよかろう。三回目が終わったら、私の国に来るという取引はどうだ」
「このお方を助けられるなら、それで構わない」
異教の神の言葉に、私は肯きました。
「そうか。では、三世先でお前を迎えに来よう」
異教の神はそう言うと、風に乗って去って行きました。
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