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2話
物心ついた時から、ルークスの世界は人ではないもので溢れていた。
いつも天井の隅にいる一ッ目。ベッドの下を覗くとよく走り回っている黒い毛玉。特段悪さをするわけでも良いことをもたらすわけでもない彼ら。
暇なときは、空飛ぶ獣のような姿をしたなにかをよく窓から見ていた。
幼い彼の話し相手になってくれるモノもいた。
『みてみて、あのとりさんキレイだねえ』
『ルークス…?何を言ってるの?部屋の中に鳥なんかいないわ』
『ルークス坊ちゃん、誰としゃべってるので?』
『え?』
それらが他人には見えないのだと気づいたのは一体いつだっただろうか。
その頃にはもう実の両親からも「気味の悪い子」というレッテルを張られてしまっていた。
加えて3歳のとき大神官直々に「悪魔の子」と宣告されて洗礼を拒否される事件があってからは、乳母には捨てられ両親は会いに来てくれなくなった。
ルークスの生まれたヘルメシアという国は、国民全員が3歳になれば洗礼を受ける信心深い国民柄だ。太陽の神ヘルキアが絶対的善であり、人間に見えない異形とされる魔物は悪という明確な共通認識がある。
都心にある商家、ステッラェ家も例外ではない。
不気味な我が子を受け入れきれない当主クロードと母アリアは双子の兄であるルベリオに愛情や期待を傾けるようになった。
「一ツ目、本当に本当だろうな」
『んあ~~ほんとう~』
扉前からほぼ這うようにしてベッドまでやってきたルークスは、仰向けになったまま心配そうにこちらをのぞき込む一ツ目に視線をよこした。
一ッ目はルークスが物心ついた時から部屋にいて、一体何が気に入ったのか、ルークスが両親の指示で使用人部屋に引っ越しても付いてきた。
謎に日付感覚に優れており、人間の暦にも詳しい。だからこと日付に関しては信頼しているのだ。
そもそも一ツ目が嘘をつく理由もない。
ルークスは右腕で目元を覆うと大きくため息をついた。
「…あの日々が、夢だったはずはない」
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