黒のウエディングドレス

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黒のウエディングドレス

エドワードの領地では、花嫁が着るドレスの色は黒だと決まっていた。 黒のウエディングドレスが伝統なのだそうだ。 黒には「あなた以外には染まりません」という意味があるという。 オリビアは鏡の前でエドワードの母が用意した黒のドレスを身に着けていた。 一般的に喪に服す時の色で、縁起が悪いとされる黒だ。 最初は気が乗らなかった。けれど郷に入れば郷に従えで、我儘な嫁だと思われたくなかったし仕方なくそれを承諾する事にした。 「とても綺麗だわオリビア!黒いドレスというのはね、夫への忠誠の証なのよ。生涯夫だけのものになりますという意味」 継母は目を細めて満足そうにオリビアを褒めた。 結婚というのはそういうものなのだろう。 夫以外の人には見向きもしません。あなた以外はいりません。 それをこのドレスを着て誓わせる。 契約の証の色なのね。 彼は貴族ではあるが領地も小さい。かなり困窮している男爵だった。 私の家は平民だが裕福な商家で、実家の援助を目当てに彼が結婚を申し込んできたのだった。 政略結婚が当たり前の世の中だ。 オリビアは父が決めた結婚に、物申すことはできなかった。 夫のエドワードはそれでも私を愛していると言ってくれた。 「政略結婚だったとしても、君を僕の妻にした以上必ず幸せにすると誓うよ」 「ええ。ありがとうございます」 「母や父は、昔の人だから厳しい事を言うと思うけれど、無理はしなくていいから」 「わかったわ」 「早く跡継ぎをつくり、幸せな暮らしをしよう」 彼がいてくれたら、頑張れると思った。 私は黒いウエディングドレスをクローゼットの一番目立つ場所に掛けた。 このドレスに誓った以上、私は何があろうと夫に生涯寄り添おうと決めた。
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