黒のウエディングドレス

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「なんで今日は魚料理なの?お肉じゃないと食べる気がしないわ」 「オリビア、後でいつものマッサージをしてくれるかい。最近腰の調子が悪いからね」 「オリビア、明日のドレスの準備をお願いね。ミゲル様の夜会に呼ばれているから。勿論、優先事項よ。私にも早くお嫁に行ってもらいたいでしょう?」 義妹のタバサは私よりも二歳年上だった。 ミゲル様というのは辺境伯だ。隣の領地ではあるが、彼が国境を守っていてくれるからこそ、男爵家の領民たちが平穏に暮らせる。 けれど義妹のような、男爵家の娘ごときでは相手にされないだろう。 ミゲル様は王家の覚えもめでたい方だ。王女殿下と結婚してもおかしくない。 「まぁ、あなたがミゲル様の妻の座を射止めるなんて無理よ。私の方が美しいもの。オリビア私の方の準備が先よ、お願いね」 もう一人の義妹もまだ結婚していない。 「わかりました」 もう反論することさえできなかった。 エドワードはこのやり取りを聞いているのか、知らん顔だ。 「エドワード。最近領地の方はどうなの?皆が税を収めないから私たちの生活も苦しくなるのよ。妹たちのドレス代だってこれから必要になるんだから。貴族としての体裁だけは整えてね」 「母さん。それは無理だよ。領民たちは皆一生懸命働いている。自分たちの食料を得るのでさえ今は苦しいんだ。これ以上税を徴収するのは難しい」 「オリビアの実家の持参金はもうすぐなくなるわ。そろそろ援助をお願いしたらどうかしら?」 「そんな無理は言えないよ。オリビアはただでさえ一生懸命、我が男爵家のために働いてくれているんだ。彼女にこれ以上負担をかけるわけにはいかない」 口でそう言っていても、エドワードが私の実家に援助を申し出たいと思っているのは火を見るよりも明らかだった。 「実家に用立てて貰う為に、一度帰郷致します」 嫁いできた男爵家の為だ。私が何とかするしかない。 「それはすまない。だがそうしてもらえればありがたいよ」 エドワードはそう言って私を抱きしめた。 翌週、私は自分の持ってきた中で一番ましな服に着替えた。 実家への援助を申し出るために、領地経営に関する出納帳の写しと、今までの出入金の記された台帳も準備した。 いくら父親だとはいえ、娘を嫁に出したからといって何も聞かずに大金を出すわけにはいかないだろう。 父は商売人だ。利益のないものに投資はしない。 実家から持ってきたドレスや宝石は、平民の私が着る必要はないといわれ義妹たちが持っていった。価値のある物はすべて取り上げられた。 ドレスを着て出かける事も無いので、私には必要のない物だ。 義妹たちが着たいのなら仕方がないと我慢した。 夫は新しいドレスが買えるように、もっと頑張るよと言ってくれた。いつか必ず君にプレゼントするからねと。 夫は領地から収益が出るように今も頑張っている。 彼の言葉を信じ、もうしばらくの間我慢しようと思った。 クローゼットの壁には、黒いウエディングドレスが掛けてある。 私はこのドレスのせいでこの状況から抜け出せない。 このまま一生、奴隷のようにこの男爵家で暮らすしかないのだ。
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