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「この腕はな、今日のような討伐で失ったんだ──」
「討伐で?」
「ああ、そうだ」と、アッシュが頷きを返す。
「おまえみたいに魔物に襲撃をされている少女を救おうとしたんだが、その頃の俺は剣がまだ未熟で、魔物に腕を切り落とされちまった」
火がバチッと爆ぜる音がして、チュチュがビクンと肩を震わせる。
その肩を、(大丈夫だ、恐くない)というようにそっと抱いて、アッシュは話を続けた。
「そうして、ようやく満身創痍で魔物を討ち取ったんだが、当の少女には酷く恐れられて、そのまま逃げられてしまったんだ」
「えっ、逃げちゃったの?」と、チュチュが驚いたように、アッシュの顔を仰ぎ見る。
「ああ、よっぽど恐ろしかったんだろうな、腕を失い血濡れな俺の姿が」
「そんな……だって、その子のために、そうなったんでしょう?」
「そう、だがな……」と、アッシュがひと息を吐く。
「ただ、俺の度量が足りないせいでもあったのだから、仕方がないだろう。実際もっと速やかに倒せていたら、その娘も恐れて逃げたりはしなかったのだろうしな」
もう一度、ふーっと息を吐き出すアッシュに、
「私は、逃げないもの!」
と、チュチュがしがみつく。
「逃げない……だって、私のために頑張ってくれたのに。だから絶対に逃げたりしない!」
「ああ、わかった。ありがとうな。……うれしいよ」
アッシュの節くれた大きな手の平で撫でられると、チュチュは安心したように頭を肩にもたせかけた。
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