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前編
「そこを、どけ! 危ないっ!」
投げかけられた男の声に、長い栗色の髪の少女が、弾かれたようにその場を飛び退く。
屈強な体躯のその男は、左手一つで持った大剣を振りかざすと、少女に尖った爪を突き立てようとしていたどう猛な翼竜を、一撃で打ち倒した。
ギギギエー……!
翼をバタつかせ、竜がドゥーッと地面に沈むと、辺り一面を覆うように大きな砂けむりが上がった。
やがて視界がある程度開けると、怯えてへたり込んでいた少女に、男の手が差し伸べられた。
「あ、ありがとうございます!」
華奢な体を慌てて折り曲げた少女が、傷だらけのごつい手に捕まり立ち上がる。
「ここは、野蛮な魔物らが多い。あまりうろうろするな」
ぶっきらぼうな言葉がかけられ、少女が縮こまってコクンと小さく頷く。
「ああ悪いな。別に恐がらせようとしたわけじゃない。これは忠告だ。こんなところからは、早く立ち去った方がいい。では、な」
元々不器用なのか形ばかりなフォローをして、背中を向けるその男に、
「あ、あの、待ってくださいって!」
と、少女が声を上げ追いすがった。
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