赤い木の実は危険な香り

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「お前たち、食べながら聞けよ。今日からうちの監獄に新入りが来ることになった」 ニコラが食堂の席の前方でこちらに呼びかけている。 囚人たちは、皆自分の食事に夢中であまり真面目には聞いていないようだ。 少ししてニコラの大きな背中に隠れるように立っていた小さな人影が顔を出す。 「今日からお世話になります。新しく看守としてこちらに参りました。サモモです。よろしく。」 見慣れない顔のお嬢さんがこちらに挨拶をしているようだ。 「おい、新しい看守だってよ。こりゃ珍しいな」 「ほら、お嬢さん。俺はミランってんだ。仲良くしようぜ」 周りの囚人はそれを冷やかしたり、馬鹿みたいに悪絡みしているからお嬢さんは緊張している様子。 不安そうに辺りを見回す様子がロクジョウには不憫に思えた。 「今日の報告は以上だ。お前ら食事を続けろ」 ニコラと新入りのお嬢さんは話を終えたのか、看守室に帰ってゆく。 それからもたちの悪い連中がついて行こうとするが、それはニコラによって制された。 そうして静かになって、いつも通りの食堂の空気感になる。 ロクジョウも、自分の前に置かれたプレートに目を戻す。 そこにある軽量のプラの皿の上には、半液体のゼリーのようなものが載せられている。 傍らにはドリンクバーでもらってきたオレンジジュースと、あとはお手拭きとスプーン。 これで全部だ。 前に不思議に思って看守に聞いたことがあるが、これは加熱した豚の血液を主としたゼリーなのだそうだ。 栄誉を補うために血液に類似した成分のいわゆるサプリメントのようなものも配合しているらしい。 それらは一日三回主食として提供される。 いつも食べているから味は知ってる、いちご味でまぁまぁ美味い。 スプーンですくうとドロリと半分崩れるゼリー。 口に入れるとやっぱりいちごのような味がする。 なぜ血液がいちご味なのかは未だに理屈がわからない。 けれど、まあいいと思う。 どろっとした食感をかき消すようにオレンジジュースを飲むと、なんだか口の中がスッキリとした気がした。 「あっ、溢しちまった」 「何やってるんですか、ミランさん」 誰かがゼリーをこぼしたような内容の会話。 他にもくだらない会話やら、食器をぶつけるようなカツカツと甲高い音もしている。 「ロクジョウは今日もオレンジジュースなのかよ」 隣に座るヒロはトマトジュースを飲んでいるようだ。 この食堂で一番人気のの飲み物はトマトジュース。 でもトマトジュースが人気なのはヴァンパイアだからだとヒロは言っている。 しかしロクジョウは、それは単にトマトジュースが美味しいからなのではないかと思っている。 そうして何事もなく食べ進めていると、じきに皿は空になってゆく。 「外で待ってるから、食べ終わったら来てくれ」 そう言ってヒロは食堂から出ていった。 赤いゼリーも残り二口ほど。 食べ終わったあと、皿などを返却口に持っていくことを考えていたその時だ。 「なんだぁ〜!!アンタ何やってんだ!!」 廊下で何か水をこぼしたような音とともに、ヒロの声がした。
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