6 忘れたくない存在

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6 忘れたくない存在

 それから、リーシャの目まぐるしい日々が始まった。  彼女が無実の罪で断罪される日まで、時間はない。  ジェドが繋いでくれたコネクションを武器に、リーシャは反撃の舞台を着実にととのえていく。  そんな彼女の傍には、常に執事がついていてくれた。  彼女の手足となり、身を粉にして尽くしてくれる執事。  最初こそ記憶にない彼に警戒心を抱いていたものの、今ではもう、彼は彼女の半身ともいえる存在にまでなっている。  ……それなのに、リーシャは未だに彼の顔も名前も覚えられずにいた。  朝を迎えるたびに彼の名前を尋ねる毎日。そのことに、リーシャは得体のしれない焦燥感に駆られる。  ――何度聞いても記憶に残らない彼の名前、そして姿。  その名を耳にするたびに今度は絶対に忘れまいと強く思うのに、少し彼と離れただけでその記憶はすぐに薄れていく。まるで指の間からこぼれ落ちていく水のように。  そしてそれはいくら振り返ろうと、思い出すことのできない記号となってしまうのだ。  そんな現象に対抗して、彼の名前を書きつけておこうとしたこともあった。  しかし、そうすると今度はペンを手にした途端に、自分が何をしようとしていたのかすっぽりと抜けてしまう。  それはもはや、ツルギを記憶することは許さないという何らかの大きな意思が働いているかのようだった。  そんな不可思議な現象に、リーシャはただただ不安を覚える。  ツルギの正体が掴めなくて不安なのではない。いつか自分が彼のことを忘れ、彼の居ない生活を当然のものとして過ごすようになってしまうのではないかと不安なのだ。  現に、リーシャは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
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