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8 願いと代償
――ただ、彼女が笑ってくれれば良かった。
それだけだったのに。
それだけの願いを叶えるのが、どうしてこんなにも難しいのだろう。
ロマの民として生まれたツルギは、子供のころから家族というものに縁がない人生を送っていた。
母親は小さいころに亡くなったために顔も覚えておらず、父親に至っては誰かもわかっていない。
彼が家族と呼べる唯一の存在は、武人である祖父ひとりだけ。
「気味悪い目でこっち見んな、呪われるー!」
「お前なんて、あっち行け!」
両親が居ないうえに変わった瞳の色をしていたツルギは、一族の中であからさまに異分子として扱われていた。
祖父以外に親しい者はなく、周囲からは父親のわからない不気味な目の子供と蔑まれる日々。
そして十になったばかりの頃、唯一の肉親であり庇護者であった祖父も呆気なく死んでしまった。
それからすぐのことであった――体調を崩し寝込んでいた彼が、ロマの仲間たちに捨てられたのは。
打ち捨てられた小屋の中で襲われる高熱と割れるような頭の痛みに、ツルギは己の死が近づいていることを悟った。
――恐怖はない。ただ、虚しいと思うだけだ。
惜しむような何かがある訳でもなく、ツルギは無抵抗に意識を手放す……。
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