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それから、どれほど経ったことだろう。
柔らかな陽射しが、瞼の裏で優しく彼を照らすのを感じた。
そっと触れられる柔らかな感触は、ツルギがしばらく忘れていた温もり。
意識を失うように眠っていたツルギは、その気配にぼんやりと目を覚ます。
「ぅ……」
「大丈夫? 声は出せる? 気分はどう?」
うっすら目を開くと、少女特有の舌足らずで高い声が矢継ぎ早にツルギに問いを投げかけた。
まだ焦点の合わない視界で、ツルギはその声のする方向へ緩慢に目を向ける。
「……っ!」
天使が迎えに来たのかと、思わず息を呑んだ。
人形のように美しい少女が、自分の顔を至近距離で覗き込んでいたからだ。
高熱で涙の滲んでいた視界は光すらも彼女の一部かのように取り込み、その姿をくっきり浮き上がらせる。
もはや神々しいとすら言えるその輝き。
その光に、もしかして自分はもう死んでいるのだろうかと、ツルギは半ば本気で考えていた。
声を出すことも忘れて、少女に見惚れてしまう。
「熱はだいぶ下がったと思うけど……まだ喉が痛むのかしら。ゆっくりと寝てちょうだい」
まだ幼いのにませた口調でそんなことを言うと、「あら」と少女はツルギと目を合わせて嬉しそうに微笑んだ。
――ああ、その瞬間をツルギは決して忘れることができないだろう。
花の綻ぶような可憐な微笑みと共に、天使のような彼女は言ったのだ。
「あなたの目、とっても綺麗ね」と。
ロマの人間から「不吉だ」と謗りを受けてきた瞳を。ツルギですら重荷にしか思っていなかった疎ましいその色を。
何も知らない彼女はただ、「綺麗」と。そう、言ってくれた。
――それこそが、ツルギが生涯忠誠を尽くす主人を見つけた瞬間であった。
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