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「恐縮ですが、お嬢様の体調が悪いようですので本日の歓談はここまでとさせていただいてもよろしいでしょうか」
物腰は穏やかに、しかし断固とした口調でハロルドへ告げる声を、リーシャは他人事のように聞いていた。
「っ、誰が好き好んでこんな女と話がしたいと思うものか!」
怒りに身を任せて立ち上がったハロルドは、そんな彼女に指を突きつけて言い放つ。
「良いな。先程の挙げた素材、できるだけ早く用意をしておけ。お前と次に会うのは、それの手配が終わってからだ」
「……はい、承知いたしました」
頭を下げて恭順の意を示すと、もう興味はないとばかりにハロルドは彼女から背を向ける。
「おい、ティアラとの待ち合わせへ急ぐぞ。まったく、こんなところで時間を取られていたから、彼女と会う時間が減ってしまった……」
仮にも婚約者の屋敷に居るというのに、憚かることなく浮気相手の名を口にしながらその場を後にするハロルド。
その何処までも身勝手な姿を見送りながら、リーシャは複雑な想いを抱いていた。
(やはりそうだ、これはあの時と同じ光景……ということは、時が巻き戻っているの……?)
死にゆく間際の妄想だとしたら、あまりにも鮮明すぎる。そして走馬灯だとしたら、記憶と異なる会話をしている道理が通らない。
現実離れした発想だとしても、過去に戻ったと考えるのが一番納得感があった。
(でも、だとしたら……彼のこの依頼に応える訳にはいかない)
千々に乱れる思考に乱されながら、リーシャはそっと瞼を閉じる。
(だって私は……その依頼に応えたために、ハロルド様に殺されたのだから)
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