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激情に身を焦がしながらも、ツルギは冷静であった。
今大事なのは何よりもまず、リーシャの無実を証明して身の安全を確保することだ。
そのために休む間もなくツルギはあちこちを奔走し、情報をかき集めた。
寝る間を惜しんで駆けずり回って、どんな小さな情報でも確かめて。
……そして、その執念がついにそれを見つけ出したのである。
「あった、これだ……!」
喜びの声がツルギの唇から小さく洩れた。
城下町にある青い屋根のタウンハウス。
事前の情報通りにあった隠し部屋へと足を踏み入れたツルギは、そこでようやく目的のものを見つけることができた。
彼の足元にあるのは、粗暴な性格のハロルドが作成したとは思えない程に精緻な書き込みの為された召喚陣だ。
……ただし、今はまだ最後に必要な代償となる贄の文言は、続きが空白となったまま。悪魔召喚は今のところ、実現していない。
今回の件でリーシャが用意したとされた悪魔召喚の陣。
それがよくできたニセモノであることに気づけたのは、祖父からロマの技を学んでいたツルギだけであろう。
それの意味することに気がついたのも。
すなわち、悪魔召喚はただリーシャを断罪し処分するための手段ではなく、それ自体に目的があるのだと。
であれば、必ず本物の召喚陣があるはず。
それさえ見つけられればリーシャの潔白は証明できる……そのために、ツルギは必死にその証拠を探してきたのだ。
ようやく見つけた――リーシャが連れ去られてから数日間ロクな睡眠もとっていないツルギは、またとない証拠を前に疲弊とも安堵ともわからない溜め息を吐き出す。
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