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――さっそく衛兵に伝えねば、とそうしてひと通り確認を終えたツルギが部屋から出ようと踵を返そうとした、その時だった。
今まで何の反応も示さなかった召喚陣が、突然仄暗い光を放ちはじめた。
血のように紅い文言が妖しく燃えはじめ、そして踊るように身をくねらせていく。
「…………っ!?」
何が起きたのかと呆然と佇むツルギの目の前で、陣の中には新たな文字が生成されはじめる。
空白だった贄の欄に記されていく、あってはならない名前――『リーシャ・バートン』。
その名前から、まるで彼女の身体から流れ落ちるように朱い鮮血がどくどくと滲み出る。
「嘘だっ、まだ裁判まで日があるはず……!」
「ふふ。堪え性のないあの男に、そこまで待つような余裕なんてあるわけないじゃない。対価は、確かに受け取ったわ」
「っ、誰だ……!」
思わず洩れた彼の呟きに答える、突然の声。
ばっと顔を上げたツルギの目に飛び込んできたのは、召喚陣の縁に腰掛けた男の姿であった。
下半身は陣の中央に沈み込んだまま、男は艶やかな微笑みを浮かべて「ハァイ♪」とツルギに向かって親しげに手を振ってみせる。
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