8 願いと代償

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「それなら『気まぐれな隣人(グィニード)』よ、貴方は召喚主ではなく俺と取引をすることも可能、なのでは?」 「…………」  何も答えずにグィニードは無言でツルギの言葉の続きを催促する。  そんな彼に向かって、ツルギは躊躇(ためら)いなくがばりと頭を下げた。 「払えるモノなら何でも払います。俺の命を捧げたって構いません。だから、お願いします。どうか……どうか、お嬢様をこの馬鹿げた死の運命から救ってほしい。幸せに生きられる道を、そのチャンスを、いただけないでしょうか!」 「へぇ? 何でもする、って言うだけなら簡単なのよね。彼女のタメに今すぐ死ね、って言われて果たして本当にできるのかしら?」  冷めたグィニードの声にも、ツルギは怯まない。 「ええ。それで彼女が、幸せになれるなら。それさえ成し遂げられるのであれば……俺は、この世界を差し出せと言われても構いません」 「この世界を、ですって……?」  思いも寄らないことを言われた、とグィニードは口に手を当てる。  しばし呆気に取られた顔をしてから、彼は肩を震わせて笑いはじめた。  くつくつと忍び笑う声は、やがて部屋を震わせる程の哄笑(こうしょう)となる。 「想い人のタメなら世界すら犠牲にする……? ふふっ、美談に見せかけてなんたる傲慢、なんたる横暴なの!」  人ならざる美しい生き物は、嘲るような言葉と共に天を仰いだ。 「そう、それだからこそ人間は面白いのよ! 要人の暗殺なんてツマラナイ仕事、何を言われようと引き受けるつもりはなかったけど、そんな願いならワタシも(たぎ)るというもの!」
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