8 願いと代償

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 ビシリとツルギを指差して、グィニードは妖艶に笑む。 「己の幸運に感謝することね。他の同族と違って、ワタシは血や争いを好む野蛮なタイプじゃないの。ワタシが好きなのは苦悩、悲嘆、そしてその後の歓喜。――良いわ、アナタの願いを叶えてあげましょう。アナタと、アナタの大切なお嬢様の時間を戻してあげるわ。対価は……」  少し思考を巡らせてから、グィニードはポンと手を打った。 「彼女が持つ、アナタに関する記憶……とか面白いんじゃない? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。最初は顔、そして名前……やがてアナタの存在すら、彼女は忘れてしまうでしょう。少し側を離れただけで、アナタという存在は彼女の記憶から消えてしまう」  どういうことかわかる? とツルギの顔を覗き込むグィニードの表情は、悪戯を思いついた子供のように無邪気で残酷だ。 「アナタがいくら彼女に尽くそうと、それはすぐに忘れられてしまう。アナタの献身は、いつまで経っても報われない。――そんな一方的で(いびつ)な関係が、果たしてどれだけ続くことかしら」 「なんだ、そんなこと」  しかし仄暗いグィニードの嘲弄とは対照的に、それを聞いたツルギの表情は晴れやかであった。 「それなら俺はもう、とっくに報われている」
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