2 記憶にない彼

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2 記憶にない彼

「さっきはありがとう。実のところ少し気分が悪かったから、助かったわ」  ハロルドが帰ったのを確認して執事然した男に声を掛けると、男は安堵したように小さな笑みを浮かべた。 「あんな男のために無理をなさらないでください。あの男、結局お嬢様を心配するひと言すらなかったですね……」 「仕方ないわ、彼の言うとおり辛気くさい女だもの。気遣う必要も感じられないのでしょう」  溜め息をつきながら部屋の壁に飾られた鏡へと、ちらりと目を走らせた。記憶通りの姿がそこには映し出されている。  老人のような白い長髪は重くまっすぐに落ちていて、最近の流行りの柔らかな巻き毛風のセットはほぼ落ちているし、そもそも似合っていない。  切れ長の薄い水色の瞳はキリリとしていて可愛さの欠片もなく、長身の身体は痩せて女性的な柔らかさからは程遠い。  血管が透ける程に白い肌もそれだけ挙げれば長所だが、白い髪、水色の瞳と色素の薄いパーツが相まって、その佇まいはまるで亡霊のよう。  こうしてあらためて見ても、可愛さの欠片もない外見だ。可憐さに満ちたハロルドの浮気相手とは真逆の姿。 「辛気くさいなんて、とんでもない!」  彼女としては至極当然のことを口にしただけだったのに、男は憤ったようにその言葉を否定する。
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