8 願いと代償

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 ――それこそが、悪魔との契約の恐ろしいところなのだ。  彼らは間違いなく公正(フェア)だ。願ったことは遺漏なく実行されるし、求めた以上の対価を奪っていくこともない。  しかし、彼らの求める対価は契約者の心の柔らかいところを確実に(えぐ)っていて、契約した人間の心を(むしば)むのだ。  望みの叶った契約者の先に用意されているのは、破滅へと続く綺麗な一本道。  それ故に、悪魔との契約はどこまでも慎重に行わなければならない。  だから、これ以上自分の欲望が膨れ上がる前に。  取り返しがつかなくなる前に一旦リーシャと距離を置こうと、ツルギは苦渋の決断を下したのであった。  ハロルドによる断罪が回避された今、リーシャの身を脅かす危険はひとまず去ったと考えて良いだろう。  少しの間彼女から離れれば、契約の効果通りリーシャは自分のことを忘れるはずだ。  そうしたら、ただの使用人と主人の関係に戻ることができる。  一度二人の信頼関係をゼロに戻して、彼女の特別な一面を目にすることがなくなれば……心を許した笑顔が自分に向けられなくなれば、こんな醜い衝動からは逃れられる――そう、考えたのだ。  張り裂けそうな心の痛みを無視して、ツルギはパーティの喧騒が届かない屋敷の外へと足を急がせる。  一度足を止めてしまったら、そこからもう進めなくなってしまいそうだ。  そうして必死の思いで逃げるように庭へと出たところで……「待って!」と、聞こえるはずのないリーシャの声が後ろから響いたのであった。
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