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これ以上彼と目を合わせることができなくて、リーシャはそっと視線を落とした。そんな彼女の耳朶に、囁くような掠れた声が届く。
「本当に……俺なんかで、良いんですか。ここで貴女が頷いてしまったら、俺はもう二度と貴女を離すことができなくなるでしょう。いつか貴女が自由を願っても、その時には逃がしてあげられなくなってしまいます。それでも……構いませんか」
力がこもっているわけでもないのに、その声にリーシャはぞくりと背筋を震わせた。
彼の言葉が誇張でないことは、その熱く絡めとるような視線が雄弁に物語っている。
その執着に満ちた視線を受け止めて、リーシャは迷わずに真っ直ぐ頷く。
「えぇ。構わないわ。家を捨てる覚悟だって、できている。たとえ貴方が悪魔でも……喜んでこの身を捧げましょう。貴方を、愛している」
「悪魔でも、ですか……」
その言葉に低い声で笑う執事の呟きに、リーシャは首を傾げる。
――彼女は、知る由もない。
実際に悪魔と契約した彼が何を望み、何を失ったかなんて。
彼が絶対に手に入らないだろうと諦めていた存在が、欲しいと思うことさえ己に許さなかった対象が自分だったなんて、彼女はまだ知らない。
それでも、リーシャは彼を選んだ。
もう彼から離れることはできないだろうなと予想しつつも、その甘やかな拘束に喜んで身を差し出した。
もう二度と、彼のことを忘れたくなんてないから。
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