2 記憶にない彼

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「ハロルド様の要望された素材を確認しましたが……どれも稀少で一般には流通していないものばかりですね」  室内着に着替えてひと息ついたところで、リーシャの元に男は再び現れた。  その姿を見るに、彼はどうやらリーシャ付きの執事らしい。  自分に執事など居ただろうか――そんな疑問をリーシャが抱えているうちに、男はひと呼吸置いて「お言葉ですが」と言葉を続ける。 「素材の中には、違法なものもいくつか含まれています。禁忌とされている呪いや、悪魔召喚に使われるもの……ハロルド様はそういった禁術に手を出そうとしているのかもしれません。手に入れること自体は可能ですが、いかがいたしましょう」  ――()()()()、という言葉にリーシャは心臓を鷲掴みされたような痛みを覚えた。  かつての彼女が手をつけたとされる禁術……悪魔召喚。  そのための素材を集めたことで、リーシャは罪に問われた。そして罪を裁かれる前に、口封じのために殺されてしまった。  利用されるだけされて殺されてしまったから結果はわからないけれど、リーシャに罪を押し付けたハロルドは結局、悪魔を召喚したのだろうか。  そして、自身の望みを叶えたのだろうか――そんなことを考えながら、リーシャはゆっくりと首を振る。 「その件に関しては、すぐ動かなくても良いわ。少し考えさせてちょうだい」  なにしろその素材を集め終えたら、ハロルドに殺されてしまうのだ。これからどうすべきか、先に考えをまとめたい。 「……承知いたしました」  リーシャの答えが意外だったのだろう。少しだけ目を見開いてから、男は静かに一礼した。 (まぁ今までの私だったら、少しでも早くハロルドの依頼に応えようとしていたものね……彼に、そしてお父様に認められるために)  彼の反応に苦い納得感を覚えつつ、リーシャは目の前の見覚えのない男をそっと目を向ける。
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