1 発端

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1 発端

「金だけが取り柄の成金一族であるお前を役立ててやろうというのだ。俺の気遣いに感謝しろ」  傲慢で、相手が自分の思う通りに動くことを疑わない声。それを耳にした瞬間、まるで夢から醒めたようにリーシャの意識は突然その場に放り出された。  受け止めきれない量の色、音、匂い――いきなり切り替わった景色の情報を、五感のすべてが痛い程の刺激でリーシャに伝えてくる。 (今の声、間違いなくハロルド様のものだ。でも、どうして……? 一体、何が……)  圧倒的な情報量が処理しきれず、目は開いているのに目の前の状況が理解できない。  先程まで自分は、冷たい石の上で血を流して倒れていたはずだった。  骨が軋むような寒さと痛み。 ガタガタ震えるたびに血が流れ出し、そしてさらに体温は失われていく。  それはもはや骨が凍りついたかと思う程の苦しみで。  やがて意識が薄れていく中で柔らかな温かさとふわふわした浮遊感に包まれるようになり、これでようやく楽になれると安堵した……はずなのに。 「おい、聞いているのか!」  反応の悪い彼女に苛立ったように、目の前の男がガンと拳をテーブルに打ちつける。その行動までが、そっくり記憶の中の「彼」のものと同じだ。 (そんな……そんなはずはない。もしかして、これが走馬灯というものなの……?)  ずきりと目の奥が痛む。景色がぐるぐる回りはじめたようで、吐き気がする。  ――何が起きたはわからなくても、今身を置いているこの時間はかつて自分が過ごしたものと同じ。
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