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数日後の午後九時、彰浩は光屋といつものようにデートと称して食事に来ていた。これももうかなり回を重ねているが、未だに光屋は断りもしないし、嫌がりもしない。
それだけ自分のことを信頼し、心を許してくれているのだと思うと、嬉しい反面、今はとても苦しかった。
「ホント、この間は悪かった。お礼なんだからもっと食っていいよ」
海鮮が美味しいと同僚に聞いて来た居酒屋は魚料理が本当に美味しかった。彰浩が注文用のタブレットを光屋に差し出すと、これ以上は、と光屋が眉を下げる。
「もう入りませんよ。北さん全然食べてくれないから、ほとんどおれが食べたじゃないですか」
「そうか? でもまあ……ほら、女の子ってそういう感じだろ? 練習だと思えよ」
彰浩が笑うと、そんな練習いらないです、と光屋も笑う。やっぱり笑顔がとても魅力的だと思った。いつまでも眺めていられる。
きっとぼんやりとしてしまっていたのだろう。光屋がこちらを見つめ、北さん? と首を傾げる。彰浩はそれに気づき、ちょっと酔ったかな、と光屋から視線を逸らした。
「そろそろ出ましょうか。北さんが二日酔いにならないうちに」
「なったらまた、光屋くんが介抱してくれるんじゃないの?」
「別にそれは構いませんが……具合悪くなるのは嫌でしょう?」
光屋が微笑み、行きましょうか、と立ち上がる。彰浩はその言葉と笑顔に心臓を大きく高鳴らせた。冗談で言った言葉に、こんなにまっすぐに優しい言葉を返されるなんて思っていなかった。
こんなことで心を奪われてしまうのなら、このままでいいわけがない。彰浩は光屋に気づかれないようにぐっと唇に力を入れた。
やっぱりこれ以上傍にいたらきっと手放せなくなる。
「……光屋くん、俺、やっぱりすごい酔ってるかも。ちょっと、どこかで休んでいかない?」
彰浩が立ち上がり、光屋の肩に体を寄せる。光屋が一瞬びくりと体を震わせたが、すぐに、大丈夫ですか? と彰浩の腰を支えた。
「ん。休めそうなところ知ってるから、付き合って? 光屋くん」
「はい、もちろんです」
本当に心配そうな顔をする光屋に少しの罪悪感を抱きながらも、これで最後だから、と心の中で謝って、彰浩は光屋の肩に顔を埋めた。
「……北さん……ここって……」
「うん。ラブホだね」
彰浩に言われるがままここまで付いてきた光屋が、部屋の中へ入ると、急に緊張した面持ちになる。驚いたその様子を見ると、男とラブホなんて入れるとすら思っていなかったのだろう。
彰浩はくすくすと笑いながら光屋の手を引いてベッドへと乗り上げた。彰浩に引っ張られ、光屋もその隣に座り込む。
「来たことない? 光屋くん」
隣を見やると、ないです、と少し赤くなったその顔がふるふると横に振れる。
付き合っても長続きしないと言っていたから、ここまでの関係になる前に別れてしまっていたのかもしれない。女だというだけで、光屋に愛される可能性があるというのに本当に過去の彼女たちはもったいないことをしていると思う。
「そっか。じゃあ、本番の前に俺と練習しておこうか」
彰浩が光屋の体を押し倒す。案外簡単に組み敷くことができて、彰浩はそのまま光屋の腹に馬乗りになった。
「北、さん……?」
「あー、そうだよね。俺じゃ勃つものも勃たないか。とりあえずこれで我慢して」
彰浩は自身のネクタイを引き抜くと、光屋の目隠しとしてくるりと頭に結んだ。そうじゃなくて、と外そうとする光屋の手を押さえ、彰浩はそのまま光屋にキスをする。舌を絡め、歯列をたどるように舐めてから、頬の内側を舌先でくすぐると、光屋が、ん、と喉を鳴らした。ここが敏感らしいと分かり、彰浩がしつこく刺激すると、いつのまにか光屋の手から力が抜けていた。
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