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「その気にはならないだろうからな。多分俺は女の子を選ぶことはないから――あ、俺が嫁に行けばいいのか」 「お前、何にも出来ないだろ。料理どころか洗濯も掃除も。家事分担くらいできなきゃ」  そんな嫁つき返されるよ、と真崎が笑う。その笑顔を見て彰浩は少しだけ安心した。真崎は多分今でも、もしかしたらいつまでも自分を受け入れなかったことを気に病んでいるかもしれない。親友の一生に一度の頼みのような告白を聞き入れられなかったことで自分を責めるかもしれない。それは、彰浩にとってふられたことよりも辛いことだった。 「それでもいいって奴を探すんだよ」  俺ならきっと見つけるよ、と笑うと、頑張れよ、と笑い返される。よかったいつもの真崎だ、と安心していると真崎が思い出したように、そういえば、と口を開いた。 「この間、後輩みたいな奴と呑んでただろ」 「いつの話? 俺、このところ仕事しかしてないよ」 「いつだったかな……金曜の夜だよ。冴子と食事しようと店に入ったらお前が居て。邪魔するのも悪いから声も掛けなかったけど」  その言葉に、光屋だ、とぴんときた。友達だ、と説明しようとすると、先に真崎が口を開いた。 「なんか仲良さそうだったな。冴子が羨ましがってた」 「どうしてだよ? 冴子ちゃんが羨むなんて」 「そりゃ、冴子は北がお気に入りだからな」  真崎は温まったビーフシチューを皿に盛りながら答えた。彰浩は首を傾げる。 「カッコいい僕の親友だからだろ」  当然だ、と真崎が笑う。 「それは残念だな。冴子ちゃんなら俺だって上手くやれるかもしれないのに」  彰浩は真崎が並べた料理の前に座りながら笑った。 「いくら北でも冴子はやれないな。――でも、結婚してもまた三人で食事とかしよう」  真崎が優しい笑顔を向けながらテーブルの向こうに座る。彰浩はそれに頷いてスプーンを手に取った。そして一口食べる。 「冴子ちゃんはいい嫁さんになるな」  口に広がる温かい味に彰浩は少しだけ優しい気持ちになった。 「まあ、僕のことはどうでもよくてさ。お前も早くいい奴見つけろよ。その、僕が見たあの人みたいな奴とか」  真崎が言い、彰浩は眉根を寄せてその顔を見やった。 「あれはナシだろ。歳も大分下だし、何よりこっちの道じゃない」 「そうか? 僕にはよさそうに見えたけど」  真崎は笑いながら食卓に並べたサラダからトマトを摘む。その顔に、ホントか、と彰浩は低く聞いた。  だとしたら拙いのだ。それはつまり、自分が光屋をそういう対象として見ているということにならないか。真崎から見てそう見えるなら、光屋が何か感じていてもおかしくない。何より、自分が気持ちを傾けてしまっては困る。 「ダメだ。アイツはダメなんだよ、真崎。俺じゃアイツを満たしてやれないから」  まともに女と付き合ったこともないという光屋をこんな日陰の道に引っ張り込むことなど出来ない。 「大事な友達なんだな」 「まあ、そうだな。だからダメなんだ」  彰浩はゆっくりと笑って、食事の続きを始めた。心の中では、光屋と距離を置くべきなのか、と思いながら。
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