雲読み師と雨の神様

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昔々のどこかの国。 そこでは雲読み師という一人の青年が、空の様子、肌に感じる空気中の湿度などから天気を予知していた。 彼の予知が外れたことはない。 いや、外してはいけない。 雲読み師とは王宮でも位の高い職業であり、彼の予知が外れることがあれば、良ければ失業、最悪処刑であった。 そんな日々を過ごしている青年の精神は、日々心労で弱っていった。 ーーーもう毎日、雨でも良いのにな……。 夜、寝具に横になった青年がそう思いながら瞳を閉じると、ふと浮遊感を感じた。 驚いた青年が目を開くと、濡れてはいないのに水圧のようなものを感じる謎の空間に自身の体が浮いており、同じく謎の空間に浮いた非現実的なほどの美女が青年に顔を寄せた。 「貴方様は、雨がお好きなんですか?」 青年は、これは夢だろうと判断し、謎の美女との会話を楽しむことにした。 「雨は好きですね。特に梅雨の時期に緑豊かな木々の葉っぱや、花々が雨に濡れる光景が私は好きですね」 それを聞いた美女は、何に照れたのか分からないが顔を嬉しそうに赤く染めた。 「貴方様は変わり者ですね……。普通、人間は雨は悪い天気だって言って嫌うのに……」 「雨が降らなければ、人間は生きていけません。雨は神様からのお恵みです!」 「そう言っていただけて嬉しいですわ……。感謝の証として、貴方様の願いを聞き入れましょう……」 そう言うと、女の姿が徐々に薄れていった。 「あら?まだ名乗っていませんでしたね……。私は雨を司る神である甘露(かんろ)です……。いずれ、またお会いしましょう……」 そう言って、甘露は完全に姿を消した。 その夢を見て以降、世界は毎日雨が降るようになった。 そのため、作物の不作や水害が頻繁に起き、ようやく青年は、あの日の夢は、夢ではなかったのではと思うようになった。 雲読み師の青年は、神官のもとへ行き、甘露という名の雨を司る神について尋ねた。 どうしても、また彼女に会って毎日も雨を降らせることを止めてほしいことを伝えたのだった。 神官は、目を瞑り何かを唱え、雲読み師の青年にこう伝えた。 「雨上がりの日の虹を渡って会いに来てほしい、そして甘露様の花婿になってほしいそうだ」 青年はそれに承諾した。 その次の日、約1年ぶりに雨が上がり、空には美しい虹がかかった。 そして、雲読み師の青年は虹を渡り、雨の神ーーー甘露のもとへ向かった。 その後、雲読み師の青年がどうなったかは人間には知る術はなかった。 しかし、それからというもの、水害が起こるような大雨などの気象はなくなり、作物がよく育つ天気が続くようになったのだという。
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