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私は内心戸惑っていた。
何故なら、ここにいるメンバー達の人間臭さと云うか、悪厄としての青臭さに危機感を覚えたからで、それは即ち人間界に溺れ、情に流されることを意味する。
過去には、冥土の案内人だとか、三途の川の渡し人、誰もが恐れる死神と称された気骨さは何処へ行ったのだろう。
マッシュは演歌を上機嫌で歌い出し、しめじは肉を貪り食い、エリンギは大酒を喰らいながらしらけるジョークを連発している。
この世にありふれた、中小零細企業の親睦会そのものに私は眩暈を覚えて、
「そう言えば、今回のミッションはどのような内容なのでしょう?」
と、桂木に尋ねた。
桂木は、
「ターゲットは、作家崩れの中年男性、長年のアルコール摂取により肝機能障害を患い、妻にも逃げられ自暴自棄になり、数日後に自宅マンションから飛び降ります、彼の魂は高価です。その理由は、輪廻転生1度目の人生でしたが、身を犠牲にしながら道化を演じ、周囲を楽しませたこと。それだけに、アルコールにおぼれた事情がもったいないですね…まあ、次回はもっと素敵な生涯になるでしょう」
淡々と話す桂木に、私はわかりきってる上で聞いた。
「自ら死を選ぶのね…助けることはなさらないのかしら?」
「まさか!」
桂木は、面倒くさそうに、手で払いのける仕草をして笑った。
そこへ、完全にできあがったエリンギが、ここぞとばかりに、
「お嬢さん!助けるだ助けないだで困ってんのかな?初々しいねえ。あとさ、アルコールいいじゃない!こんな世界なんてのはさ、酒でも飲まなきゃやってられないんだっちゅーの!」
「でもね、あの、飲み過ぎには注意してくださいね、仮にも人間の身体をしているのですから」
「お!サンキュウベリマッチョ!」
私がとびきりの笑顔で返すと、エリンギは満足そうに離れていった。
面倒な相手にはこれに限る。
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