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「その、ルカ坊ちゃまという子が、例の? すごくかわいい子なんだね」
「生まれつき胸が悪いらしい。十まで生きられないだろうという診断で、ほとんどずっと二階の部屋で暮らしているそうだ」
「……そうなんだ」
神妙に頷き、口を噤む。もう、部屋の前だ。
坊ちゃま、という柔らかな呼び声とともにメイドが扉を叩く。
「魔術師さまがいらっしゃいましたよ。今日はご友人の方もご一緒だそうです。お招きしてもよろしいですか」
「もちろん!」
子どもらしい元気な声に、彼女の目尻に優しいしわが生まれる。職務としてだけでなく、彼を可愛がっているのだろう。
開いた扉の先、明るい日差しが注ぐ、きれいな部屋の窓際。大きなベッドに座っていた子どもが、きらきらとした笑顔を向けた。
「魔術師さま!」
エリアスに懐いているんだなぁ、と。ほほえましい気分で彼を見つめる。
まぁ、でも、たしかに。自分が小さかったころを顧みても、王都で評判の天才魔術師が現れたら喜んだに違いない。
「今日はどんなお話を聞かせてくれるの? ねぇ、欲しいものってなにかある?」
「ないと言っているだろう。そもそも、なんでも買ってやるというが、それはおまえの金じゃない。おまえの親の金だ」
「ちょ、ちょっと」
勝手にほほえましい気分に浸っていただけに、落差がひどい。アルドリックは思わずエリアスの袖を引いたが、メイドの彼女も少年も気を悪くした様子はない。
もしやこれがいつもの光景なのだろうか。いろいろな意味でドキドキとしていると、少年の宝石のような緑の瞳がアルドリックを捉えた。
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