エピソード1:眠り姫の毒

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「いくらきみの家だからって、そういうことは」 「だが、事実だろう。ノイマン家が資金繰りに困っているという話も、爵位欲しさにここぞと飛びついた豪商の話も、どちらも聞いた覚えがあるが」 「……そもそもの話なんだけど、魔術師殿の見解を伺ってもいいかな」 「いくらでも?」 「『眠り姫の毒』という名前は若い女の子が飛びつきやすいものをつけただけだろうし、王都に出回っていた『眠り姫の毒』のいくつかは薬草部が回収済みで、軽い眠り薬だったと実証してるんだ」  あくまでも軽い眠り薬。一定時間が経てば自然と目が覚めるはずのもので、「真に思い合う者からの口づけで目を覚ます」という原理は無理がある。  たまたまタイミングが良かったか、はたまた眠った者の演技か。どちらにせよ、噂はかなりの尾ひれがついたものだろう。  それが薬草部の見解だった。 「その上で、きみは、ノイマン家のご令嬢は『眠り姫の毒』を飲んだのだと思う?」 「見てもいないのに答えることはできない」 「あぁ、まぁ、……それはそうだよね。ごめん」  道理である。アルドリックは素直に謝罪を示した。次いで、薬草部の魔術師も似たようなことを言っていたと思い出す。  エミール・クラウゼ。所属は違うものの、宮廷に勤め始めた時期は同じ。大きな括りで言えば、アルドリックの同期である。年は向こうがひとつ上だし、自分と違い、見た目も中身も華やかな男なのだが、不思議と馬が合うのだ。  今回もアルドリックが貧乏くじを引いたと知るやいなや、当たり障りのない範囲で薬草部の見解を明かしてくれたくらいだ。  実際に見たわけではないから、断言できることは少ないが、と前置いて。
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