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「でも、きみも、引き受けないわけにもいかないと思ったから、僕を指名してくれたんだろう?」
指名に関しては、半ばやけくそだった気もするが。さておいておくことにする。
――なんていうか、適当に知ってる名前を出しただけで、僕が来なかったら「なら引き受けない」で逃げるつもりだった気がするんだよなぁ。
幼かった時分の彼であればやりかねないという想像がついてしまったのだ。今は違うのかもしれないが、そういった偏屈というべきか、頑固な部分が強い子どもだったので。
どちらにせよ、指名された以上はプライベートの悶々に目を瞑り、精いっぱいやるつもりでいる。ただ。
――あいかわらず、よくわからない子だよなぁ。
話すこと自体がひさしぶりなのだから、わからないことも当然かもしれないけれど。
何年ぶりになるんだっけ。記憶を辿ったアルドリックは、時の流れに内心で驚いた。もう、六年だ。
六年前。高等学院を卒業し、宮廷で働き始めたばかりだったころ。祖母の訃報を聞いて村に戻ったアルドリックを迎えたのは、魔術学院の寮に入ったはずの彼だった。祖母の葬儀のために、わざわざ帰省してくれていたのだ。
けれど、自分はろくなことを言わなかったのではないだろうか。
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