エピソード1:眠り姫の毒

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「それに」  感慨を押し込め、不服そうなエリアスを持ち上げるべく笑顔を向ける。繰り返すが、ここでへそを曲げられると困るのだ。 「ぜひともきみに、というご当主の要望はわかる気がするよ。ほら、なにせ、きみは十年に一人の天才で」 「それならば、なぜビルモスに頼まない」  おべっかを切り捨てられ、はは、と乾いた笑みを刻む。  いくら最年少の一級魔術師と言えど、我が国の誇る大魔術師を引き合いに出されてもなぁというのが正直なところだったが、アルドリックは本音を呑み込んだ。  宮廷に所属する常勤の魔術師は、薬草学に関する研究を行う薬草部と、騎士団同様に国防を担う魔術兵団にわかれており、王国唯一の大魔術師である彼は魔術兵団の特別職に就いている。  ちなみに、フリーの魔術師であるエリアスは、宮廷の依頼を断らずに引き受ける立場だ。あくまで基本的には、だが。 「それは、ほら、ビルモスさまは国防に専念されていらっしゃるから。……あと、きみ、いくらなんでも『さま』くらいつけなよ。ビルモスさまはこの国唯一の大魔術師さまで」 「あの戦闘狂にか。物は言いようだな」  くっくと呆れたふうに喉を鳴らすエリアスを眺め、アルドリックは尋ねた。  ムンフォート大陸の五大魔術師と呼ばれる存在はみなの憧れで、魔術師を夢見る幼いアルドリックにとっては神に等しい存在だった。  それなのに、同じ魔術師であるエリアスは違うのだろうか。王立魔術学院に通う生徒は、彼を目指して勉学に励んでいると思っていた。
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