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「単純に時間がかかる。リスクも増える。斜陽とは言え、一応は子爵家だ。おまけに当主は娘の結婚話に賭けている。そんなものに手を出したいと思うか?」
「……思わないだろうね」
まったく嫌な判断だ。溜息を吐き、アルドリックはちらと友人を見やった。
「ニナちゃんと同じ学校の子なんだよ」
まだまだ大人の庇護が必要な、未熟な子ども。
魔術の才があったために、エミールは魔術学院で学び、宮廷の魔術師として働いている。けれど、彼の家は子爵家だ。当然、彼の妹も。恵まれた家に生まれ、両親と兄に愛されて育ったお嬢様。愛らしいニナ嬢の笑顔が過るにつれ、アルドリックはノイマン家のお嬢様が気の毒になる。
弁えているものの、彼女の父親が家名ばかりを気にしているふうなことも。貴族の世界では珍しくないと承知していても、学生の彼女が結婚を強いられていることも。怪しい薬に手を出すまでに追い込まれたのだろうことも。
表情を曇らせたアルドリックに、エミールは軽薄な態度を改めた。
「知っている。口さがない噂も出回っていると聞いた」
「口さがない噂……。それはノイマン家のお嬢様に対する?」
「まぁ、そうだ。こう言っちゃなんだが、そういうお年頃だからな。おまえが気になるならニナに聞いておくが、過剰に入れ込まないほうがいい」
「わかってるよ」
あくまで仕事と釘を刺され、苦笑まじりに頷く。一応の理解はしているつもりだ。薬草部が自分に期待をしている役割も含めて。
そういったわけだったので、「とりあえず、明日一緒に伺ってみるよ」とアルドリックはほほえんだ。
とにもかくにも、案件の解決に向け、最善を尽くすほかないだろう。ノルマン家の訪問が無事に完了することを願い、報告は終了となった。
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