エピソード1:眠り姫の毒

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【2】  ノイマン家のご令嬢エミリア・ノイマンは、少女らしく整えられた自室のベッドで穏やかに眠っているように見えた。  少なくとも、ただの文官であるアルドリックの瞳には。  エミリア嬢の状態を確認するエリアスの邪魔にならぬよう、一歩下がった場所で待機していたアルドリックは、隣に立つメイドの横顔を窺った。  エミリア嬢つきのメイドであるミアは、じっとエリアスと彼女を見守っている。  淡い金色の髪を丁寧に結い上げた楚々とした横顔は心痛そのもの。年のころは、二十五になるアルドリックとほとんど変わらないくらいだろうか。  この部屋に入る前に聞いたメイド長の話によれば、お嬢様が倒れて以降、付きっきりで看病をしているらしい。 「あの、ミアさん」 「はい」  部屋にいるのは、自分たちのほかは彼女だけだ。尋問と捉えられぬよう留意し、そっと呼びかける。 「あなたはお嬢様と親しかったのですよね」 「お嬢様と一メイドの関係でございます。親しかったなどとそのようなことは」 「ですが、あなたは姉やのような存在だったと聞きました。幼いころよりお嬢様を見守り、お嬢様もあなたに随分と心を許されていたと」  これも事前に聞いた話だった。使用人の中でお嬢様と一番親密だったのは彼女だとメイド長が証言をしている。 「あなたもお嬢様をとても心配していらっしゃるようですし――」 「仕える人間として、心配することはあたりまえではありませんか。親しかったなどと申せる関係ではございませんが、大切なノイマン家のお嬢様です。心配に決まっております」 「それは、そうですよね。すみません」  不安に染まりながらも柔らかだった当初の印象を一変させた態度に、アルドリックはおのれの失敗を悟った。
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