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――困ったなぁ。
どうも警戒をさせてしまったらしい。挽回する言葉を探す途中、見分を終えたエリアスがちらりと振り返った。
呆れたような視線に、「仕事ではなく本心で心配をしている」という表情を急いで取り繕う。まったくの嘘ではないつもりだ。
「あなたを疑う意図も、気を悪くさせるつもりもなかったんです。申し訳ありません。お嬢様の考えや行動がわかれば、解決の近道になると思いまして。どうか、改めて確認をさせていただけませんか。お嬢様は『眠り姫の毒』を飲むと仰ったのですよね」
そう、彼女が証言したとアルドリックは聞いている。
止める間もなく小瓶を飲み干し、昏倒するように眠ってしまったのだ、と。そうして、人を呼びに部屋を空けたあいだに小瓶が消えたのだ、と。
小瓶があれば安全に解毒薬を作ることができたという話を知るとひどく悔やみ、自分を責める様子だったとメイド長は言っていた。
彼女に非はないと思っているが、責めているように響いたのかもしれない。そうではないと否定して、アルドリックは真摯に続けた。
「お嬢様が『眠り姫の毒』になぜ興味を持ったのか、どこから入手したのか。それがはっきりとすれば、お嬢様にとってリスクの低い解毒薬ができる可能性が増えるんです」
「……」
「ミアさん」
再度の呼びかけに、彼女の視線が迷うように泳ぐ。自責の念を拭うことができないのだろう。細い指先はきつくエプロンを握りしめていた。
興味がないのか、あるいは、解毒薬の調合以外に関与をする気はないのか。エリアスはなにも言おうとしなかった。
だが、ふたりがかりで質問されるよりはマシに違いない。情報収集は自分の役割と割り切り、唇が解ける瞬間を待つ。
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