エピソード1:眠り姫の毒

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「……お嬢様がどこで手にされたのかは、私にはわかりません」 「そうですか」  落胆を隠し、アルドリックは静かに頷いた。彷徨った彼女の視線がエミリア嬢の寝顔に留まる。また数秒の沈黙。  起きる気配のないエミリア嬢を見つめたまま、彼女は沈痛な面持ちで言葉を継いだ。 「ただ、あくまで想像ですが。お嬢様が手を出そうと思われた理由は理解できる気がします。大きな声では申せませんが、お嬢様は結婚を嫌がっていらっしゃいましたから」  お嬢様のご年齢を考えれば、想像できないことではありません。続いた台詞に、アルドリックはなんとも言えない心地になった。そうではないかと案じたことだったからだ。 「こちらも私の勝手な推測ではございますが、お嬢様は旦那様相手に賭けに出たのではないでしょうか。『真に思い合っている者の口づけで目を覚ます』と言われている薬です。婚約者様の口づけで目を覚まさなければ、旦那様も真に思い合っている相手を認めてくれるのではないか。――あるいは、そうでないのであれば、目を覚まさなくともよいとお考えになったのかもしれません」 「そんな……」 「認められていないだけで、真に思い合っている者がいるような口ぶりだな」 「魔術師殿」  エリアスの嫌味な口調に、アルドリックはぎょっとした瞳を向けた。制そうと試みたものの、エリアスはどこ吹く風である。
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