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「客観的に聞いていて、そう思ったというだけだ。想い人とやらがいるのであれば、それを探したほうが早いのではないか?」
「やはりそうでしょうか」
「だが」
どこかほっとした相槌に被せるかたちで、エリアスは言い放った。
「真に思い合っている者の口づけで眠りが覚めるなど。そんな曖昧な解除条件が存在するとは信じがたいが」
「……え」
ミアが灰色の瞳を強張らせる。不安に気づいたアルドリックは、再びエリアスを制した。
「魔術師殿。その話は」
自分たちは承知しているが、彼女はまやかしと知らないのだ。「真に思い合う者からの口づけ」が一番安全な解毒方法と信じて縋っていたとすれば、ショックを受けて当然である。
そうであるにもかかわらず、アルドリックを一瞥した直後。エリアスは、彼女に冷たく断言をした。
「つまり、ただの毒だろうという話だ。解毒が叶わなければ、いずれ死ぬ」
「そんな……」
呆然と呟いたきり、ミアは蒼白の顔で唇を震わせている。心底申し訳なくなり、アルドリックは声をかけた。
「ミアさん、大丈夫です。無責任に聞こえるかもしれませんが、逆に言えば、解毒が叶えばお嬢様は助かるということで――」
上滑りのする慰めなど耳に入らない様子で、彼女はエミリア嬢を凝視している。きっと心配でならないのだろう。
長く感じる沈黙を経て、ぎこちなく彼女の顔が上がる。
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