エピソード1:眠り姫の毒

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「申し訳ございません。取り乱してしまいました」  気丈な謝罪に、「あたりまえのことです」とアルドリックは心情を慮った。依然としてミアの顔色は青白い。 「我々こそ配慮が足らず申し訳ありません。ですが、お嬢様のために力を尽くしていることは事実です。それに、彼は一級魔術師なので。間違いなく解毒は叶います」 「簡単に約束をするな。間違いなくなどという保証はできかねる。まぁ、成分が判明すれば、成功の確率が上がることは事実だが」 「ちょっと!」  間違いなくという表現が迂闊だったことは謝るが、言い方というものがあるだろう。アルドリックはエリアスを部屋の隅に引っ張った。  今後も行動を共にするのであれば、頼むので言動を改めてほしい。 「なんだ?」 「なんだ、じゃないよ。あのねぇ、きみ。間違っていなかったら、なにを言ってもいいわけじゃないことは、さすがにわかるだろう?」  子どもじゃないんだから、との非難は胸に留めたものの、そういうことばかり正確に伝わったらしい。青い瞳に不満を乗せたエリアスが、ぽつりと呟く。 「合理的な方法を取ったつもりだったのだが」 「なにが合理的なんだよ……」  意味がわからないし、彼女が気の毒なだけではないか。脱力したアルドリックを見下ろし、まぁ、いい、とエリアスが口を曲げる。  まぁ、いい、は間違いなく自分の台詞だったが、アルドリックは大きな子どもに問い返した。 「なに?」 「帰るぞ」 「ええ、ちょっと、帰るって――。ちょっと! 魔術師殿!」  叱られてバツが悪くなったから帰るとか、どこの子どもだよ、なんて。この場で言えるわけもない。  呆然とするミアに「すみません」と頭を下げたアルドリックは、言葉のとおりドアノブを回したエリアスを慌てて追いかけた。 「ちょっと、ちょっと本当に待って! 魔術師殿!」  報告も挨拶もせずに帰ることもまた、できるはずがないのである。  どうにか廊下で彼を引き留め、ついでにと通りがかったメイドにミアのことを頼み――フォロー不足が気になったのだ――、仏頂面のエリアスを執事のもとに連れて行き。  報告と挨拶を済ませて屋敷を出るころには、アルドリックはほとほと疲れ切っていた。  頼むので、本当にもう少しでいいから、まともな言動を取ってほしい。
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