エピソード1:眠り姫の毒

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 王都の大通りを抜け、人の通りの少ない道に入ったところで、アルドリックは溜息を吐いた。一歩前を行く国家魔術師の臙脂のローブが恨めしい。  ――それにしても、まったく、なんで、ああいう態度を取るかなぁ。  おまけに、外に出てなお不満の残る顔をしている。ほとんどの人間は無表情と評すだろうが、幼いころを知るアルドリックにはわかるのだ。  ふたつ目の溜息は呑んで、背中に声をかける。 「あのねぇ、魔術師殿」  説教臭い呼びかけになったものの、エリアスは思いのほか素直に視線を寄こした。聞く耳のある態度に、自然と口調が和らぐ。 「急に帰るなんて言ってどうしたの? なにか気に食わないことでも?」 「子ども扱いをするな」  だったら、子ども扱いされるようなことをしないでくれるかなぁ、との嫌味も厳重に押し込め、アルドリックは首を横に振った。 「そういうわけではないけど。でも、急に帰るなんて言われたら、僕もだけど、ミアさんたちも驚くよ」 「……」 「まぁ、言ってしまったものはしかたがないし、帰ってしまったものもしかたがないけど。理由くらい聞かせてくれないかな。その……僕たちは一応、一緒に仕事をしているわけだし」  対人関係に難のある天才魔術師の尻拭いが自分の仕事ではあるものの、伝えたとおりで、せめて理由くらいは教えてほしいな、と思う。  ついでに言うと、彼自身のためにも言動は見直したほうがいいと思っているし、お互いに気持ち良く仕事ができるに越したことはないとも思っている。  幼馴染みだからとか、そういうことではなく、一仕事人としてのあたりまえの感情として。宥める調子で、アルドリックは言葉を続けた。
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