エピソード1:眠り姫の毒

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 恨みがましい視線を受け流し、エリアスはさらりと言い返した。 「だが、あのメイドの関与は、ほぼ確実になっただろう」 「……関与って、どういう関与なんだろうね」  蒼白な顔色も、呆然自失とした態度のわけも。エミリア嬢を純粋に心配してのこととアルドリックは捉えていた。だが、エリアスの仮定を加味すると違う道筋が見えてしまう。  ――あの表情が、「とんでもないことをしてしまった」というものでなければいいのだけど。  今回の「事件」が大ごとに発展していない理由は、当主が醜聞を嫌がったことと、もうひとつ。令嬢が自ら飲んだという前提があったからだ。  結婚を嫌がった少女が流行の「眠り姫の毒」を飲んだという筋書きに無理はなく、だから、ノイマン家の当主を含めた全員が、解毒薬の完成を解決の終着点に定めた。  お嬢様の頼みを断ることができなかったメイドが、キスで目覚める程度のものと信じて用意したのであれば。小瓶の紛失も偶然が重なったのであれば、救いはある。だが。
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