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「どういう関与とは」
「その、……これは、最悪の想像なんだけど、お嬢様が自ら『眠り姫の毒』を飲んだと証言したのはミアさんだけだ。『眠り姫の毒』が入っていたとされる小瓶も見つかっていない。彼女が悪意を持って飲ませたと言われても、否定することのできる材料がないんだよ」
エミリア嬢が穏やかに眠っているように見えたのは、身なりが整っていたからだ。豊かな金色の髪はきれいに梳かされ、ミモザの花で彩られていた。四日も目を覚ましていないとは思えぬ頬のまろさは、ミアが化粧を施しているからだろう。
エミリア嬢を見守る瞳に灯る感情は、慈愛と心配と思っていたかった。考えるように目を伏せたエリアスが、青い瞳を向ける。
「飲ませたとすれば、『眠り姫の毒』か? それとも、ほかのなにかか?」
「それは、わからないけど」
「ならば、仮に『眠り姫の毒』であると信じたものを飲ませたとして、あのメイドになんの得がある」
「わからないよ」
アルドリックは、おざなりに繰り返した。言葉にしたのは、あくまでも最悪の想像だ。考えすぎであってほしいと願っている。
ただ、人の感情は複雑怪奇にできている。お嬢様を純粋にかわいく思う心と妬ましく思う心は、簡単に同居しうるのだ。その事実を、自分は身をもって知っている。
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