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――認められていないだけで、真に思い合う者がいるような口ぶりだな。
思い出した声に、アルドリックは「あ」と呟いた。石畳を見つめたまま、沈思黙考する。
「どうした?」
立ち止まったことに気がついたらしく、先に進んでいたエリアスが隣に舞い戻る。
傍若無人な振る舞いばかりのくせに、なんで、こう、妙なところでかわいげを見せるんだろうなぁ。律儀というか、真面目というか。
本当によくわからないなぁ、と思いつつ、アルドリックは問いかけた。
「きみさ、認められていないだけで、真に思い合っている者がいるような口ぶりだって、彼女に言ったよね」
「言ったが。はったりではないぞ。現にあのメイドも食いついただろう」
そのあとの発言で真っ青になったけどね、との突っ込みは我慢して、それって、そういうことなのかな、ともうひとつを問いかける。
「そういうこと?」
「だから、その……婚約者の口づけで目を覚まさなければ、ご当主も結婚を取りやめてくれるかもしれない。そういう賭けに出た可能性があるって、ミアさん言っただろう?」
「言っていたな」
「可能性じゃなくて、それがお嬢様の計画だったのかもしれないと思って。ミアさんも『眠り姫の毒』に害はないと思い込んでいたから協力したのかも」
「浅はかだな」
「そうは言うけど」
呆れ切ったエリアスの言を、アルドリックはやんわりと否定した。
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