エピソード1:眠り姫の毒

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「僕も、ミアさんも、もちろん、お嬢様も、きみのような魔術の知識は持っていないんだよ。そういう人間からすれば、魔術はなんでも叶えてくれる特別な力に見える」 「……はっきりと言っておくが、魔術は都合良くなんでも叶えてくれるというものではない。大きな力であればあるこそ、相応の対価が必要になる。魔術とはそういうものだ。当然、魔術ではどうにもできない事象もある」 「さすがにわかってるよ。高等学院で学んだしね。ただ、そういうふうに思う人は、きみが思うよりずっとたくさんいるんだってこと」  本当に幼いころ、アルドリックにとって魔術師はヒーローそのものだった。アルドリックには両親の記憶がない。物心がつく前にふたりとも死んでいるからだ。  だから、育ての親である祖母から聞いた話でしか彼らのことを知らない。その祖母も、今はもういないけれど。  アルドリックの両親は、病魔に侵された幼いアルドリックを助けようと、魔獣の多く出る夜道を急ぎ、隣町まで医者を呼びに行こうとしたのだそうだ。その最中で魔獣に襲われ、死んでしまったらしい。最期の言葉を聞いて治しに来たという魔術師が、祖母に語ったことだ。彼が煎じた薬でアルドリックは持ち直したが、魔獣に襲われた両親の命が返ることはなかった。  魔術師が万能でないことも、身をもって知っている。ただ、それでも、アルドリックは魔術師に憧れた。同じように誰かを救いたいと願った。
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